日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について
日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第13回(平成28年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。(年齢・現職は平成29年1月12日現在)
氏名 | 川口 大司 (かわぐち だいじ) | |
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生年月 | 昭和46年6月(45歳) |
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現職 | 東京大学大学院経済学研究科教授 | |
専門分野 |
労働経済学 | |
研究課題 | 日本の労働市場における不平等に関する計量経済学的研究 | |
授賞理由 | 川口大司氏は、高度成長と人口増加の終焉、IT革命に代表される技術変化、日本型雇用慣行の変容を背景として生じている労働経済の諸問題を研究してきました。川口氏の研究スタイルは、大規模マイクロデータに標準的な労働経済学理論と計量経済学手法を適用することによって事象を分析し、変化の本質に迫るというオーソドックスなもので、それにより労働市場における格差問題について幾多の興味深い事実が明らかにされました。他の先進国と違って日本では、学歴間の賃金格差が比較的安定していたことは知られていましたが、学歴・企業規模・性別にみた同一属性グループ内の格差は拡大したことを見出し、前者は人口変動に起因する高学歴者の供給増によって、後者は経済成長率の鈍化と企業収益率低下に起因する需要・供給双方の変化によって説明できると論じています。いずれも昨今における格差と不平等をめぐる論議に対して重要な含意をもつ優れた研究業績であり、今後のさらなる活躍が期待されます。 |
氏名 | 杉山 将 (すぎやま まさし) | |
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生年月 | 昭和49年11月(42歳) | |
現職 | 理化学研究所革新知能統合研究センター長 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 |
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専門分野 | 機械学習 | |
研究課題 | 人工知能社会の実現にむけた機械学習の理論と応用の研究 | |
授賞理由 | 人工知能という言葉ができてから60年がたち、最近、社会の種々の課題解決に大きく貢献するようになってきました。その基盤技術の一つは深層学習と呼ばれているものですが、杉山 将氏は時間的に変化する状況に対しても有効に働く「非定常環境下での適応学習理論」を打ち立て、顔画像からの年齢推定、会話からの話者識別、ロボット運動制御、その他数々の課題に適用し、大きな成果をあげました。 |
氏名 | 野町 素己 (のまち もとき) | |
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生年月 | 昭和51年4月(40歳) | |
現職 | 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター准教授 | |
専門分野 | スラヴ語学 | |
研究課題 | カシュブ語を中心とするスラヴ諸語の形態統語構造ならびにその通時的・地理的変化に関する類型論的研究 |
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授賞理由 | 野町素己氏の研究テーマは、スラヴ語学であり、特に西スラヴ語群に属するカシュブ語および南スラヴ語群に属するバナト・ブルガリア語です。両言語ともに消滅危機言語に指定されており、前者は主にポーランド北部、後者は主にルーマニアとセルビアの国境地帯に少数の話者がいます。 |
氏名 | 茂呂 和世 (もろ かずよ) | |
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生年月 | 昭和51年11月(40歳) | |
現職 | 理化学研究所統合生命医科学研究センターチームリーダー | |
専門分野 | 免疫学(自然リンパ球) | |
研究課題 | 新規免疫細胞の発見と機能解明 | |
授賞理由 | 茂呂和世氏は脂肪組織内にリンパ組織が存在することに気づき、その中にこれまでは知られていなかった新規のリンパ球が存在することを発見し、それをナチュラルヘルパー細胞と命名しました。この細胞は、リンパ球系に属するが、B細胞受容体やT細胞受容体を持たず抗原特異的な認識がありません。初期の免疫応答にかかわり、これまで報告されてきた各種T細胞サブセットと同等のサイトカインを産生します。その後、同様の新規細胞が幾つか発見され、現在では、獲得免疫機構が成立するまで体を守る細胞として、2型自然リンパ球と総称されるようになっています。自然リンパ球は、感染やアレルギー性疾患において極めて重要な役割を果たすことが明らかになり、近年、注目を浴びています。茂呂氏は、そのような新たな研究分野の発展の要となる発見をするとともに、現在も、自然リンパ球研究の中心的存在としてこの分野の発展に貢献し続けています。 |
氏名 | 山田 泰広 (やまだ やすひろ) | |
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生年月 | 昭和47年8月(44歳) | |
現職 | 京都大学iPS細胞研究所教授 | |
専門分野 | 腫瘍病理学 | |
研究課題 | 生体内細胞初期化技術の開発とそのがん細胞運命制御への応用 | |
授賞理由 | 分化した体細胞の運命を初期化するiPS細胞の樹立には、ダイナミックなエピゲノム制御の改変を伴います。山田泰広氏は、体細胞初期化技術を、積極的にエピゲノム制御状態を改変する技術と捉え、がん研究に応用しました。マウス生体内における細胞初期化因子の誘導による「生体内体細胞初期化モデル」を開発し、生体内での不完全な細胞初期化が小児固形がんに類似したがんを発生させることを見出しました。さらにこの腎臓がん細胞からiPS細胞を作成することで、非腫瘍性の腎臓細胞に分化させることに成功しました。これらは、がんがエピゲノムの制御異常により発生しうることを示したものであり、がんは遺伝子変異によって発生するという概念に一石を投じ、がん細胞の運命転換によるがんの新規治療戦略の可能性を示すものです。iPS細胞技術とがん研究を融合させた山田氏の独創性の高い研究は、今後この分野の発展に更に大きな貢献をするものと期待されます。 |
氏名 | 吉田 直紀 (よしだ なおき) | |
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生年月 | 昭和48年9月(43歳) |
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現職 | 東京大学大学院理学系研究科教授 |
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専門分野 | 宇宙論 | |
研究課題 | 大規模数値シミュレーションに基づく初期宇宙での構造形成の研究 | |
授賞理由 | 近年、地上と人工衛星からの観測の急速な進歩によって、生まれて間もない宇宙の姿が明らかになるにつれ、ビッグバン後に宇宙を満たすガスの中で密度揺らぎから多数の恒星と星間ガスという初期構造がいかに生まれるかを明らかにすることが課題となってきました。吉田直紀氏と共同研究者は物理法則を基にこの過程を詳しく計算するコンピュータープログラムGADGETを開発しました。これは今ではこの分野の世界の標準ツールとなっています。 |