日本学士院
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授賞一覧 貴重図書・資料 公 開講演会

日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について

 日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第17回(令和2年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。
 本賞の選考は、独立行政法人日本学術振興会の日本学術振興会賞受賞者(令和2年12月17日公表)を対象として行い、毎年6名以内に授与することとしています。 受賞者には賞状・賞牌及び副賞として記念品が授与されます。
 なお、例年2月頃に同時に行われている日本学術振興会賞及び日本学士院学術奨励賞の授賞式については、新型コロナウイルス感染症の状況を考慮し、今回(令和2年度)は開催しないこととなりました。
(年齢・現職は令和3年1月12日現在)

氏名

浦川 篤 (うらかわ あつし)

浦川篤
生年月

昭和51年2月(44歳)

現職

デルフト工科大学化学工学科教授

専門分野

不均一触媒、オペランド分光

研究課題

高圧条件・非定常操作による二酸化炭素の高効率触媒的変換と反応メカニズムの解明

授賞理由

 浦川 篤氏の研究は、地球環境問題における愁眉の温暖化ガスである二酸化炭素を効率的にメタノール、ギ酸メチル、炭酸ジメチルに資源化する触媒的水素化プロセスの開発に関するものです。その特徴は、選択性、収率に優れた生成物に有利な反応系を確立する上で、臨界状態に着目するという卓抜な発想を起点として、非定常操作を駆使する点にあります。特にメタノール合成では最高水準の反応系を確立し、実証試験にも繋がっています。

 浦川氏の研究のもう一つの特徴は、オペランド分光を駆使し、不均一触媒反応をリアルタイムでその場観察することにより、反応機構の本質的解明に取り組むとともに、得られた知見を触媒反応の最適化にフィードバックする姿勢にあります。

 同氏は、触媒分野における先駆的な研究成果を挙げるとともに、メタンの活性化という挑戦的な課題に取組むなど、今後も国際的に分野を先導することが期待されます。

氏名

岡 勇輝 (おか ゆうき)

岡勇輝
生年月

昭和53年10月(42歳)

現職

カリフォルニア工科大学生物・生物工学専攻教授

専門分野

哺乳類における本能行動の神経基盤

研究課題

体内の水分・塩分恒常性維持に関わる神経回路の機能的同定

授賞理由

 岡 勇輝氏は、これまであまり注目されてこなかった哺乳動物の水分と塩分欲求制御機構の研究を行い、中枢神経と末梢神経の両方のレベルでその制御機構を明らかにしました。第一に、口渇と飲水行動を正負に制御する神経細胞群を明らかにし、第二に塩分摂取を支配する神経回路を同定しました。脳内の口渇制御神経は液体の嚥下と腸内の浸透圧変化により抑制され、また塩分欲求神経は末梢の塩味知覚によって制御を受けていることを明らかにしました。第三に水が直接味覚細胞を刺激することにより味覚として感知される(水を美味しいと感じる)という極めて興味ある神経機構を明らかにしました。岡氏の一連の研究は、水分と塩分欲求行動の中枢神経レベルでの神経基盤と制御機構を明確に示したものであり、最近の神経科学の研究の中でも特筆すべき成果と評価されます。

氏名

鯉渕 道紘 (こいぶち みちひろ)

鯉渕道紘
生年月

昭和52年5月(43歳)

現職

情報・システム研究機構国立情報学研究所准教授、
総合研究大学院大学複合科学研究科准教授

専門分野

計算機システム・ネットワーク

研究課題

並列計算機システムの相互結合網へのランダム性導入に関する先駆的研究

授賞理由

 従来の並列計算機システムの相互結合ネットワークは、メッシュ、ツリーなどの規則に従って構成されており、これはメッセージ移動時間の最小値を与えるものでないことが知られていましたが、並列計算の大型化に従って、この遅延時間が並列計算発展の大きな障害になってきました。このような状況の中で、本研究は計算ノード間の規則的配線にランダムな配線を追加することによって遅延時間の最小化を図ることに成功した画期的な研究です。配線のトポロジカルな構造をグラフ表現し、グラフ上のノードからノードへメッセージが転移する回数を少なくすることで、結果的に遅延時間を100分の1に減少するという革命的な結果を得ました。一方、計算上のランダム配線は物理世界において当然複雑な配線を必要とします。鯉渕道紘氏はこの理論結果の実現のために克服しなければならない難問を、超広域の光無線によるケーブルレス化の実現により、並列計算に特徴的であったラック間の複雑な配線を不要にするという画期的な発明によって解決しましたが、この成果は現在世界的に大きな注目を集め、大型計算の進歩の一つの主導的立場を獲得したと言えます。

氏名

菅谷 拓生 (すがや たくお)

菅谷拓生
生年月

昭和57年12月(38歳)

現職

スタンフォード大学経営大学院准教授

専門分野

理論経済学

研究課題

私的観測下での繰り返しゲームにおける協調行動の一般理論の証明

授賞理由

 有名な「囚人のジレンマ」は、個々人の自己利益の追求が社会全体にとって望ましくない状態を生みだす例ですが、このことは一般的に成立します。したがって、「いかにして社会のためになる協調行動が達成され維持されるか」が社会科学の最重要課題になります。実は、1回限りの関係では協調的な行動を選ばない利己的な個人同士の場合でも、長期的な関係においては「暗黙の協調」が生まれる可能性は、半世紀以上前からゲーム理論家の間で「フォーク(民間伝承)定理」として知られていました。ただ、社会全体で誰がどう行動したかが分からない場合は未解決のまま残されていました。菅谷拓生氏の最大の仕事は、「私的不完全観測下のフォーク定理」と呼ばれるこの問題に一般的な枠組みで完全な解答を与えたことです。また、各人が関係を結ぶ相手が次々と変わっていく場合も未解決でしたが、菅谷氏は近年この問題にも解答を与えることに成功しました。

 「協調の一般理論」という社会科学における中心問題において一番の鍵となる結果を導いた同氏の仕事は、日本の社会科学の水準の高さを国際的に知らしめる重要な貢献です。将来のさらなる貢献が期待されています。

氏名

三浦 あゆみ (みうら あゆみ)

三浦あゆみ
生年月

昭和56年3月(39歳)

現職

大阪大学大学院言語文化研究科准教授

専門分野

英語史

研究課題

英語史における非人称構文の統語法・語彙の実証的研究

授賞理由

 Oxford University Press英語史叢書に収められた三浦あゆみ氏の主著は、中世英語で広く見られる非人称構文の特性を、中英語(Middle English; 12-15世紀)の情動動詞に即して分析しました。斬新な点は、非人称構文をとる(情動主体は目的格に置かれる)動詞のみに注目するのでなく、それを、主体を主格主語とする類義の動詞と精細に比較し、現代英語の心理動詞研究さらには心理学の成果をも援用して、統語的差異と意味的差異の関連を析出したことです。非人称構文は近現代英語では極めて限られる(it rains/snows, methinksなど)だけに、中世英語の人間把握・世界把握の精緻な追究にもつながりうる実証的成果かつ方法論的深化と言え、代表的専門誌の書評でも高く評価されています。その後も、統語論分野はじめ中英語語法へのラテン語の影響の検証など多くの論考を内外の代表的研究誌等に寄稿するほか、国際的英語史論集の共編者を務め、標準的提要New Cambridge History of the English Languageへ寄稿を依頼されるなど、英語史研究で確固とした国際的地位を築いています。

氏名

宮本 圭 (みやもと けい)

宮本 圭
生年月

昭和56年8月(39歳)

現職

近畿大学生物理工学部准教授

専門分野

生殖生物学、発生生物学

研究課題

卵内初期化機構に関する研究

授賞理由

 卵子が受精すると、受精卵は分化全能性を獲得します。精子以外の分化した体細胞を未受精卵に移植すると、移植した体細胞の核に初期化が誘導され、核移植胚が発生を始め、個体が誕生します。この知見に基づいて1990年代にヒツジやウシなどの除核卵細胞に体細胞核を移植してクローン動物が産生されました。しかし、その生産効率は極めて低く、初期化に与る因子とそのメカニズムは不明でした。

 宮本 圭氏は、様々な動物の卵細胞中のクロマチンタンパク質等が移植核の遺伝子の転写を制御する初期化因子であることを実証しました。加えて、宮本氏は哺乳動物クローン技術の向上に向け初期胚発生機構の解明などの成果を一流国際ジャーナルに発表しています。

 同氏の研究成果は、畜産に革命をもたらすばかりか、基礎発生学、生物学に貢献するところが多大です。同氏には今後も世界の生殖・発生生物学分野をけん引することが期待されます。