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日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について

日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第16回(令和元年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。(年齢・現職は令和2年1月14日現在)

氏名 石﨑 章仁 (いしざき あきひと) 石崎章仁
生年月

昭和52年11月(42歳)

現職 自然科学研究機構分子科学研究所教授

専門分野

化学物理学、物理化学
研究課題 実時間量子散逸系理論の構築とその光合成初期過程解明への応用
授賞理由

  孤立した凝縮系物質の諸現象は量子力学で議論されます。しかしながら現実の量子系は常に何らかの外界と接触しているため、その量子性はしばしば破壊されると考えられます。複雑な分子系においては量子性の維持と崩壊のバランスが化学ダイナミックスの様態(量子散逸現象)に大きな影響を及ぼします。したがって、こうした多自由度ゆえに生じる揺らぎや摩擦に晒される化学反応に対する量子効果への影響を理解することが重要になります。石﨑章仁氏は量子散逸現象の例として光合成に着目し、まず量子散逸系動力学理論・非線形光学応答理論を構築、超高速レーザ分光などの実験研究者と連携しながら、光合成の初期過程における電子エネルギー移動やエネルギー変換過程の解明に挑戦しています。石﨑氏の研究は、生命科学の基礎ともなる生体高分子ダイナミックスを理論的に解明するという、萌芽的かつ野心的研究であり、国際的にも高く評価され多くの新奇な研究が展開されており、この分野の今後の展開が期待されています。

氏名 加藤 賢悟 (かとう けんご) 加藤賢悟
生年月 昭和57年10月(37歳)
現職 コーネル大学統計学データサイエンス学科准教授
専門分野 統計学、計量経済学
研究課題 ビッグデータと高次元データ解析における統計理論研究
授賞理由

 加藤賢悟氏は統計学・計量経済学、特に(1)分位点回帰分析、(2)ノンパラメトリック推定、(3)高次元統計解析などの分野で、国際的に影響力の高い先進的な理論的研究を多数行ってきました。(1)では、例えば政策効果が分位点に応じて異なる場合の統計分析に関してパネルデータも扱える手法を理論的に解明し、幼児栄養失調や経済格差問題等に有効な分析手法を提供しています。(2) では、計量経済学において重要な操作変数回帰モデルのノンパラメトリックな推定に関する従来の仮定を根本的に改善する理論を提示しています。(3)では、変数の次元が観測値よりも多い場合の統計的推測の計算量を大幅に縮減する基本的な分析手法を開発し、ビッグデータを使う機械学習やミクロ計量経済学への応用の道を開きました。
 加藤氏の研究は、数学的に緻密であるとともに、様々な実証分析への応用が予想されるものです。今後も統計学、計量経済学の多くの分野で革新的な成果を生みだすことが期待されます。

氏名 倉本 尚徳 (くらもと ひさのり) 倉本 尚徳
生年月 昭和51年1月(43歳)
現職 京都大学人文科学研究所准教授、
東洋大学東洋学研究所客員研究員
専門分野 中国仏教史
研究課題

石刻資料の網羅的収集に基づく中国六朝隋唐仏教史の再構築

授賞理由

 倉本尚徳氏の全700 頁余の単著『北朝仏教造像銘研究』(法蔵館、2016 年)を含む32件の著書・論文は、5世紀から9世紀(北魏から唐代)の中国仏教思想の歴史を、伝記文献資料のみならず膨大な件数の新出土石刻資料を遍く渉猟し、使用語句の解読・分析を通じて仏教信仰の多様性と独自性を包括的かつ普遍的にとらえた画期的な研究です。
 倉本氏は、「義邑(ぎゆう)」「邑義(ゆうぎ)」「社邑(しゃゆう)」と呼ばれた造像に関係した人々や宗教結社を時代別・地域別に分類し、かれらの繁雑な肩書から拮抗と融合の歴史を繰り返した仏教と道教の信仰実態を解明しました。また石刻の銘文を正確に読み取り、刻まれた仏教経典で実践性の強い経典ほど中国撰述の経典(偽経)が多く含まれること、あるいは浄土教主の仏名の変化から阿弥陀仏信仰普及の時期や禅師たちの活動に関する定説の修正をせまるなど、中国仏教史にかかわる新説の提示によって国際的に高い評価を得ています。
 新たな手法をもって学界を牽引する倉本氏により、今後、中国思想史・宗教史研究が大きく進展することが期待されています。

氏名 西増 弘志 (にします ひろし) 西増 弘志
生年月 昭和54年7月(40歳)
現職

東京大学大学院理学系研究科准教授

専門分野 構造生命科学
研究課題 ゲノム編集ツールCRISPR-Cas9の構造機能研究
授賞理由

 RNA依存性DNA切断酵素CRISPR-Cas9はガイドRNAと複合体を形成し、標的DNAを特異的に切断します。CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術は生命科学の基礎研究から動植物の品種改良や遺伝子治療といった応用研究に至る様々な分野において広く利用されています。西増弘志氏は、Cas9-ガイドRNA-標的DNA複合体の結晶構造を決定し、Cas9が標的DNAを切断する仕組みを世界に先駆け解明しました。さらに、様々な細菌に由来するCas9、および、Cas9とは異なるゲノム編集ツールとして注目されているCRISPR-Cpf1の結晶構造を相次いで決定し、CRISPR-Cas酵素の多様な作動機構を原子レベルで解明しました。また、分子構造に基づき新規の転写活性化ツールや適用範囲の拡張したCas9改変体の開発にも成功しました。西増氏の解明した構造情報はゲノム編集技術の理解および改良に大きく貢献してきました。

氏名 松下 智直 (まつした ともなお) 松下 智直
生年月 昭和50年1月(44歳)
現職

九州大学大学院農学研究院准教授

専門分野 植物光生理学
研究課題 植物の光受容体フィトクロムによる遺伝子発現の多段階制御機構の解明
授賞理由

 フィトクロムは、1952年にBorthwichとHendricksが植物などの光形態形成を司る光受容体として発見した色素タンパクです。その後の研究でフィトクロムが多様な光反応に与ることが分かってきましたが、その分子機構の詳細は不明でした。
 松下智直氏はフィトクロムのシグナル伝達機構を追究し、フィトクロムが転写量、転写開始点並びにスプライシングの制御に与ることによって、多数のタンパクを翻訳し、植物の光反応を引き起こすことを明らかにしました。また、フィトクロムのC末端のキナーゼ部位がシグナル伝達に与ると考えられていましたが、松下氏はN末端が光によって活性化し、シグナルを発することを明らかにしました。しかも、N末端単独でも、強いシグナルを発し、C末端はシグナル発信の過程に対しむしろ阻害的であることを示しました。
 松下氏の一連の研究成果は、フィトクロムによる転写開始点制御を明らかにするとともに、真核生物の新たな遺伝子発現制御機構を提示するものとして高く評価されます。

氏名 依光 英樹 (よりみつ ひでき) 依光 英樹
生年月

昭和50年1月(44歳)

現職

京都大学大学院理学研究科教授

専門分野 有機合成化学
研究課題 非芳香族化を活用した新規有機合成反応の創出
授賞理由

 依光英樹氏は、新規有機合成反応の開発において、縦横に有機金属化合物、遷移金属触媒、高反応性化学種を駆使し、様々な業績を上げてきました。その研究姿勢は一貫して新概念、新潮流の創出への意欲が横溢しています。
 特に最近の芳香環メタモルフォシスの研究は、あたかもコロンブスの卵のように“本来優れた安定性に特徴づけられる芳香環を切断し、別の環骨格へ作り変える”という概念的転換に基づくものです。また、芳香族性の喪失を含む過程を巧みに利用し、従来の遷移金属触媒を用いるクロスカップリング反応などとは根本原理を異にする芳香環連結法を開発した点も、概念の革新性が特筆されます。こうした分子変換の考え方は、その指導原理の新規性、明瞭性に加え、金属を用いないと言う意味での環境関連の優位性などから、国内外への波及効果が大きく、関連研究が盛んになり、依光氏はその先鞭をつけた若き旗手と言うべき存在となっています。

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