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日本学士院客員の選定について

日本学士院は、平成24年12月12日開催の第1064回総会において、スザンヌ・コリー博士を日本学士院客員に選定しましたので、お知らせいたします。

氏名 スザンヌ・コリー博士
Prof. Dr. Suzanne Cory
>Prof. Dr. Suzanne Cory
現職 オーストラリア科学アカデミー会長
ウォルター・イライザホール医学研究所教授
居住地 オーストラリア連邦
専攻学科目 分子生物学
生年 1942年(70歳)
略歴

1964年    メルボルン大学卒業
1965年    メルボルン大学修士課程修了
1968年    ケンブリッジ大学 Ph.D. 取得
1969-1971年 ジュネーブ大学 ポストドクトラルフェロー
1972-1974年 ウォルター・イライザホール医学研究所Queen Elizabeth II 研究員
1974-1976年 ウォルター・イライザホール医学研究所Roche研究員
1977年           ウォルター・イライザホール医学研究所研究員
1978-1983年 ウォルター・イライザホール医学研究所上級研究員
1984-1988年 ウォルター・イライザホール医学研究所主任研究員 
1988-1996年 ウォルター・イライザホール医学研究所上級主任研究員および分子生物学部門長
1993-1996年 メルボルン大学 分子腫瘍学教授
1996-2009年 ウォルター・イライザホール医学研究所長 
1996-2009年 メルボルン大学 医学生物学教授
2010年-   オーストラリア科学アカデミー 会長
2010年-   ウォルター・イライザホール医学研究所 癌部門分子遺伝学教授

主要な学術上の業績

 スザンヌ・コリー(Suzanne Cory)博士は、メルボルン大学卒業後、ケンブリッジ大学フランシス・クリック(Francis Crick)博士の研究室に留学し、学位を取得した。大腸菌におけるタンパク合成の研究を行った後、母国ウォルター・イライザホール医学研究所(Walter and Eliza Hall Institute, WEHI)に着任し、そこで抗体遺伝子の研究を開始した。間もなくコリー博士は免疫グロブリン遺伝子のクローニングを行い、この結果、クラススイッチ組換えにおいて遺伝子の欠失が起こること、またその組換え点にS領域が必要とされることを明らかにした。この研究が発展し、1983年、長らく謎であったバーキットリンフォーマにおける染色体転座t (8:14) に相当する転座がマウス形質細胞腫で起こり、これが免疫グロブリン遺伝子座とc-myc癌遺伝子の間の転座であることを明らかにした。この結果、c-myc遺伝子の転写が活性化され、発癌に至ることを明らかにした。その後、このモデルを遺伝子導入マウス法を用いて証明するとともに、その詳細なメカニズムを明らかにし、c-myc遺伝子の癌遺伝子としての役割を確実に示した。
さらに、免疫グロブリン遺伝子の転座がbcl2にも起こることが報告された(t (14:18))が、bcl2の役割は不明であった。コリー博士は、bcl2の役割を遺伝子強制発現によって検証し、c-mycと協調的に働くこと、ならびにbcl2は血球細胞の細胞死を防ぐ役割があることをはじめて示した。その後、一貫してc-myc等の癌遺伝子による発癌のメカニズム、またbcl2による細胞死抑制機構による癌化の仕組みを中心に、癌化の分子機構および細胞死との制御関係について、深い研究を行ってきた。これらの研究は、癌遺伝子とその補完的な役割をする細胞死制御因子との協調作用の解明を行うと同時に、これらの遺伝子が細胞の分化に大きな影響を与え、自己免疫病等の異常を起こすことを明らかにしたものである。コリー博士の研究は、これらの癌遺伝子および細胞死抑制遺伝子と発癌の関係において世界的に高く評価され、数々の国際賞を受け、米国科学アカデミー会員、英国ロイヤルソサイエティ会員であると同時に、現在オーストラリア科学アカデミーの会長を務めるなど、高い評価を得ている。
コリー博士は、日本の研究者と様々な面で非常に深い交流があり、日本の学術に大きな貢献をしている。1993年頃から日本人留学生との共同研究が開始されたが、1996年から2009年の間WEHI研究所長に就任し、さらに多くの留学生を育てた。直接・間接に指導した留学生や共同研究者は数十名の規模にのぼる。WEHIは世界における血液学、免疫学のメッカとして多くの日本人研究者を引き寄せてきた。この間、我が国において開催されたアジア太平洋生命科学国際シンポジウムや癌学会、分子生物学会、生化学会などのシンポジストやオーガナイザーとして招待され、多くの研究者と交流を深めた。さらに2010年、オーストラリア科学アカデミーの会長に就任し、日本学術振興会との交換留学プログラムを強化して年間7〜12名のオーストラリア人ポストドクトラルフェローを日本に派遣し、日本の自然科学に大きな貢献をした。