日本学士院

第12回学びのススメシリーズ講演会講演要旨

脳のメモ帳の不思議 —ワーキングメモリの探検—   苧阪直行

皆さんも学校で新たな知識をおぼえたり、暗算問題を解くとき、あるいは友人と会話するときに脳の中のある部分をフルに使っています。この部分は、ワーキングメモリとよばれる目標達成のためのアクティブな記憶とかかわる脳の領域で、もの忘れしないための脳のメモ帳の役割を果たします。身近な記憶ですが、その驚くべき働きは案外気づかれていません。学んだ知識やルールを思考の流れで混ぜ合わせ、うまく答えを出すために情報の予測、更新や抑制をするのがワーキングメモリです。ワーキングメモリは人類の進化のなかで、激変する自然や社会の環境をのりこえるために脳の前頭葉にかたちづくられてきた適応のための創発的な記憶で、現在も脳の進化の最前線にあります。この講演では、小さな容量ながら大きな役割を果たすワーキングメモリという不思議な記憶を、参加者も加わる実験で確かめながら、その脳の仕組みとともに考えます。