日本学士院

第8回学びのススメシリーズ講演会講演要旨

iPS細胞 —失敗の中からヒントを見つける—   山中伸弥

iPS細胞は、皮膚や血液など体の細胞に山中因子と呼ばれる遺伝子を送り込むことで、まるで受精卵のように身体中のあらゆる細胞へと役割分担(分化)する能力を得た細胞です。研究を始めた当初は、作製に至るまでに20~30年かかってもおかしくないと思って覚悟を決めていましたが、研究室の若者たちの頑張りのおかげで、わずか数年で達成することができました。はたから見たら、順調に研究を進めているように見えるかもしれませんが、実験には失敗がつきものです。そして、一見、失敗に見えることでも、中立な視点でデータを捉え直すと、自然からのヒントが現れてくることもあります。試行錯誤の中で、どのようにiPS細胞作製まで至ったのか、そこからどのように展開させてきたのか、今回はその道程についてご紹介したいと思います。