第78回公開講演会講演要旨
1) 名誉、プライバシー、個人情報—「人格的利益」に対する不法行為を考える 瀬川信久
人格的利益について、20数年前から個人情報の侵害が問題になり、さらに近年はプロファイリングなどの問題に直面しています。しかし、振り返ると、20世紀の初めにも、人格的利益に対し新たな侵害が現れました。19世紀末までは村八分、貞操権侵害など小さな社会での名誉侵害でしたが、20世紀初めから新聞・報道による名誉侵害が現れ、戦後は出版等によるプライバシー侵害が裁判問題になりました。法律は、これらの問題に立法と判例変更よって対応しました。これまで名誉、プライバシーとしてどんな人格的利益を保護してきたのか。これに対し今、個人情報としてどのような利益をどんなルールで保護すべきなのか。19世紀末からの歴史をたどりながら、今日の問題を考えます。
2) 力とは何だろうか—ニュートン力学から超弦理論まで— 小林 誠
物理学における「力」の概念がどのように進展してきたかを解説します。ニュートン力学の運動方程式では、力は物体の速度を変える働きをします。基本的な力として、万有引力(重力の力)や電気・磁気の力が知られていましたが、次第にこれらの力を伝える「場」の存在が認識されるようになりました。量子力学の完成により、場の量子論が登場すると、力は粒子の交換によって生ずると考えられるようになります。この考え方は、核力についての湯川理論の誕生を促し、中間子の存在の予言となりました。素粒子物理学の進展とともに、基本的な力は4種類存在すると考えられるようになりました。4種類のうち、重力の力については、その量子論は未完成で現在も活発な研究が行われています。