日本学士院

第76回公開講演会講演要旨

1) 基本的モラルと社会的成功—正直者は損をするのか? 西村和雄

本講演では、調査結果を参考にしながら、幼児期に受けたしつけが、成人後の子供の状況に与える影響を考えます。具体的には、道徳の基礎となる基本的モラルは何か、幼児期に受けたしつけは子供の成人後の意識やキャリアにどのような影響を与えるかなどを、海外の状況を交えつつ検討します。同時に、アダム・スミスの経済理論や、ゲーム理論における囚人のジレンマとの比較も行います。本講演で紹介する調査結果は、家庭での子育てや学校における生徒指導に活用することも可能です。できれば、実際の応用例なども紹介したいと思います。ともすれば議論が分かれがちな道徳について、何が広く共有できるかを実証的に検討することは、必ずしも意味のないことではないでしょう。

 

2) 気体の時代の科学技術—かすみ(水蒸気、空気)を食って生きることは可能か?— 北川 進

炭素資源およびエネルギー資源として重宝してきた石炭、石油や天然ガスはいずれ尽きます。サステナブルな地球環境を守る上でも地下資源に頼らない社会のために、その代替として、ユビキタスな物質(例えば空気や河川、海の水)の利用が重要です。実現すれば日本はもはや資源のない国とは言われないでしょう。そのためには気体を自在に操作する科学の創成、その技術の発展が不可欠です。東洋では、「仙人はかすみ(水蒸気、空気)を食って生きる」と言われています。空気や水を原料として身の回りのものを作る未来を実現するために、どのような革新的な材料が必要なのか、またその材料を作り、応用するための科学技術について話します。