日本学士院

第74回公開講演会講演要旨

1) 音と時間    難波精一郎

時間は生活に身近ですがその定義は意外と困難です。他方、日常生活での時間の測定は簡単です。電波時計の測定精度で十分です。一方、心の中の時間は多彩、多様です。特に心に響く音の流れは時間の流れそのものと感じますが、この音の流れは時に停滞しあるいは未来に向けて飛躍し、さらに音の記憶をきっかけとして遠い過去に戻ることもあります。この心の中の時間は小説などで繊細に軽やかに時には重厚に描写されてきました。ドライかもしれませんが、心の中の音の流れは心理学的手法を用いても測定できます。また音の流れに追随した意識の世界が時々刻々どのように変化するか記録できます。「現在」が点でなく幅があることも示せます。限界はありますが、実験データを基にこれらの話題の一端を紹介したいと思います。

 

2) 人工知能は人を超えるか  金出武雄

人工知能は「人が一般に知能的と呼ぶ能力」を人工的に実現しようとする科学工学の分野です。コンピュータの黎明期である1950年代の半ばには、すでにその研究は始まり、現在ではいくつかの領域で、人と同様、時には人以上の能力を持つものが現れ、社会的インパクトは多大です。人工知能を語る時、常に話題に上るのは「知能とは何か」、そして究極として「人工知能は人を超えるか」という質問です。研究者も含め様々な意見がありますが、講演者は「明確にYes」と言う派に属しています。講演では、「知能」は計算機科学で言うところの「計算」(情報処理)であるという観点から、人工知能研究の歴史と考え方の推移を顧みながら、知能の仕組み、奥深さ、人とコンピュータの同一性・相違点・優位性を議論してみたいと思います。