日本学士院

第73回公開講演会講演要旨

1) 確率と偶然    竹内 啓

確率について次のような命題があります。
I.確率が1に近い事象は起こりやすい。0に近い事象は起こりにくい。多数回のくり返しについての大数法則と結びつくと、必然性が偶然を克服する。ニュートン物理学の世界、エントロピー増大の法則が成立します。
II.確率の小さい事象もまれに起こる。機会が多くなれば必ず起こる。小さい事象が積み重なって一定の方向を生み出す。偶然と必然の結合、生物の定向進化、人間社会の進歩がその原則で説明されます。
III.確率の小さい大事件が必然を切断する。生物の大絶滅、人間社会における自然災害、大戦争等が生み出されます。
行動原理として、Iについては「期待値原則」、IIについては「保険原則」が適用されますが、IIIについては適用できません。このような確率のいろいろなあり方についてお話します。

 

2) 成層圏の気象  松野太郎

山に登ればわかるように気温は高いところほど低くなっています。このような状態は地球上どこでも見られますが高さ10-15kmを超えると気温の低下は止まり気温がほぼ一定の「成層圏」となります。地面に近い「対流圏」の大気では雲が生まれ雨が降り、その原因となる低気圧・高気圧が見られますが成層圏ではどのような大気現象が見られるでしょうか。1950年代以降成層圏の気象観測が充実し次々と新しい現象が見つかってきました。その中には赤道域の上空20-50kmで、ほぼ一様な東風と西風が約2年の周期で交代する不思議な現象や、真冬に北極近くの上空で1000kmスケールの領域の気温が1週間に数十度も上昇する「成層圏突然昇温」と名付けられた現象があります。これらのメカニズムについて説明します。