日本学士院

第70回公開講演会講演要旨

1) 貨幣論から見た、ビットコインの将来、資本主義の将来    岩井克人

  ビットコインと呼ばれる仮想通貨に多くの人々の関心が集まっています。ビットコインは貨幣となるのか?ビットコインは新しい貨幣なのか?ビットコインの普及は貨幣のない社会を招来するのか?仮にビットコインが世界中で貨幣として流通することになったら、資本主義はどのようになるのか?など、さまざま問いかけがなされています。この講演会では、『貨幣論』の基礎に戻って、これらの問いに答えてみるつもりです。そして、その答えを通じて、私たちが生きている資本主義という社会が、究極的に何によって支えられているかも考えてみようと思っています。

2) 発酵を通して見る「見えない巨人」・微生物  別府輝彦

  身近な発酵の中に、微生物についての昔の人の智慧と最新の科学技術の両方を見ることができます。わが国の酒造りの主役であるコウジカビは、世界の農産物を汚染している危険な毒素をつくるカビを、私たちの祖先が無毒化したものです。チーズ造りに不可欠な子牛胃袋の酵素を微生物につくらせる遺伝子組換え技術は、アフリカの農村にラクダ乳の新しい利用の道を開こうとしています。
いまでは驚くほど多様な有用物質をつくり出す発酵産業を支えてきたのは、19世紀末に始まる純粋培養をもとにした微生物学ですが、最近登場したDNAを通して微生物を見る新しい手法は、地球上で最大の生物として生命圏全体を支える、「見えない巨人」ともいえる微生物の新しい姿を明らかにし始めました。発酵の研究を通してかいま見たその姿と、これからの展望について話します。