日本学士院

第69回公開講演会講演要旨

1) 歴史の語りと意味
—『モン・サン・ミシェルのアリストテレス』論争とその後—
佐藤彰一

  言葉によるのであれ、文字によるのであれ、歴史は語られることによって歴史である。大小無数の出来事を、意味の構築を求めて、出来事を選び、それらを語りとして結びあわせることで「歴史」が生まれる。意味は歴史叙述の見えざる同伴者であり、導き手でもある。2008年春にフランスで出版された『モン・サン・ミシェルのアリストテレス』と題された一冊の書物は、学術書であるにもかかわらず、『ル・モンド』、『ル・フィガロ』などフランスを代表する新聞が取り上げ、大きな反響を呼んだ。著者が教鞭をとる学生が、授業ボイコットするなどの強い社会的反応を起こしたこの事件が、いかに歴史の語りと深く結びついていたかを考える。

2) 「海岸工学」 —私の終生の研究課題—  堀川清司

   私の終生の研究課題は、私が当時の東京大学大学院(旧制)の学生の時に決まったと言っても過言ではない。それは、1953年の台風13号が沖縄から関東にかけて広域に災害を発生させたことによる。更に6年後、いわゆる伊勢湾台風により、戦後最大の高潮災害が起こり、日本政府はその対応に追われた。当時米国では、それまでの成果を基に「海岸工学」を発足し、研究活動が活発になっていた。その情報がわが国に伝えられ、それ以後、海岸工学が今日に至るまで、日本の研究者、技術者の重要な活躍の場となった。ここでは、私が係わった事柄を紹介し、ご参考に供したい。