日本学士院

第68回公開講演会講演要旨

1) 地方分権改革を目指す二つの路線  西尾 勝

  「地方分権改革」の推進方策には大きく分けて二つの路線がある。一つは、国と広域自治体(都道府県)と基礎自治体(市区町村)の間の行政サービス提供業務の分担関係を変更し、行政サービスの提供業務をできるだけ住民に身近なレベルの政府の手に移譲していく路線である(所掌事務拡張路線)。もう一つは、国と都道府県と市区町村の間の行政サービス提供業務の分担関係は変更せずに、都道府県の提供業務の執行に対して国から加えられてきた種々の関与(口出し・介入)や市区町村の提供業務の執行に対して国と都道府県から加えられてきた関与(口出し・介入)を減らしたり弱めたりする路線である(自由度拡充路線)。平成7(1995)年以来今日まで続く日本の「地方分権改革」では、このうちの自由度拡充路線の方が主流になっている。これはなぜなのか、何を意味するのか、考えてみたい。

2) 空間と図形の論理と現実  深谷賢治

  幾何学は古代からある最古の学問の一つで、目に見える図形や、我々が住んでいる空間を理解することを目的に発展して来た。学問を論理的に体系だてることもその中で発展して来た方法である。そのような発展によって、幾何学は自由度を増した。現実の空間から一旦離れて、可能な空間や図形を研究することが、現代数学の幾何学である。科学技術の発展により、直接体験したりみたりする世界を超えた、極微だったり、巨大だったりする、現実についての知見が重要な役割を果たすようになった。現代の幾何学はそのような「現実」から、何を学び、また、それを理解するためにどんなことを提供できるだろうか。