日本学士院

第66回公開講演会講演要旨

1) 免疫力でがんを治す  本庶 佑

  PD-1は、1992年に京大医学部の石田らによる偶然に発見された分子である。その後の1998年までの遺伝子欠失マウスを使った研究で免疫応答にブレーキをかける受容体であることが証明された。2000年には京大とGenetic Instituteとの共同研究でPD-1のリガンドも発見された。2002年岩井らはマウスモデルでPD-1とリガンドの会合を阻害し、免疫活性を増強することによって抗がん能力が著しく高まることを発見した。この知見をもとにヒト型PD-1抗体を作り、がん研究に応用することを提案し、2006年ヒト型PD-1抗体の作製が行われた。その後治験が進みPD-1抗体はメラノーマの治療薬として2014年6月にPMDAによって承認された。現在、世界中では200件近くのPD-1抗体による各種がん腫治療への治験が進行中であり、有効性が確認されつつある。今後は日本の企業が次のアカデミア由来のシーズ誕生にどのように貢献するか注目される。

2) 知識創造によるソーシャル・イノベーションの実践?  野中郁次郎

  現代社会は、ローカルとグローバルな関係が、複雑に入り組み大きな流れをつくり、絶えず動いている。このような背景のなか表面化する社会的課題を解決するために、社会の仕組みを変える新たな知識と価値をつくるソーシャル・イノベーションの動きが活発化している。知識創造理論の観点から見れば、ソーシャル・イノベーションとは、地域の組織や人々が新たな関係性をつくり、その地域特有の歴史や伝統、文化などの暗黙知や有形無形の資産を新たな形や手法で活用して、新しい知識と社会的価値を創造し、社会を変革する活動である。本講演では、「知」から社会的価値を創出したコミュニティ・企業・NPOの実践事例をもとに、知識経営の観点から地域社会の活性化を考える。