日本学士院

第62回公開講演会講演要旨

1) マグナ・カルタ800周年に寄せて—マグナ・カルタとその神話—  小山貞夫

  今年は、世界最初の憲法・自由の憲章と称されている1215年発布のマグナ・カルタ(大憲章)の800周年の記念の年に当たります。日本では鎌倉時代の初めに当たる時代の文書が、そう評価されているのは何故でしょうか。当初からだったのでしょうか。それとも後世になってそう評価され出したのでしょうか。だとすると、いつ、誰によって、いかなる経過で?
  講演者の専攻分野であるイギリス法制史学の立場から、短時間ではありますが、この問題のポイントを話してみようと思います。

2) コムギの母系を尋ねて   常脇恒一郎

  多くの植物には、核•葉緑体•ミトコンドリアという3つの細胞小器官(オルガネラ)があり、それぞれは固有のゲノムをもっていて、遺伝、光合成、呼吸を司っています。葉緑体とミトコンドリアは、バクテリアの仲間が「原始の真核生物」に共生したものと考えられていますが、この共生の過程で、多くの遺伝子を核に盗られてしまいました。平成7年刊行の瀬名秀明さんの「パラサイト・イヴ」という科学小説は、この進化を覆し、ミトコンドリアが核の支配を試みる筋立てになっています。
  一方、核の遺伝子は両親から、葉緑体とミトコンドリアの遺伝子は片親からだけ、子孫に伝えられます。この遺伝様式の違いを利用すると、コムギの核ゲノムとライムギの葉緑体とミトコンドリアのゲノムをもつ植物ができます。かって「アフリカン・イブ」というヒトの「原始の母」が話題になりましたが、今日はこの「細胞質置換」という手法を用いてコムギのイブを尋ねる旅に皆さんをお誘いします。