日本学士院

第56回公開講演会講演要旨

1) 投票参加の政治学理論  三宅一郎

   最近の国政選挙における投票率の低下は驚くほどである。衆議院選挙の投票率は、多少の増減はあっても、1960年代以来、ほぼ68%から75%の間に収まっていたが、1996年の選挙から59.65%に急減した。それ以来、多少の戻しはあったもののまだ元のレベルには戻っていない。このような低い投票率では選挙の正統性、ひいては国の最高決定機関である国会の正統性が疑われかねない。日本の政治学で、投票参加(棄権)研究は投票率の低下防止という実践的意図も絡んで、蓄積が比較的高い研究領域であるが、投票率を上昇させるという目標達成のためには、なお一段の努力が必要であろう。この講演は、最近の政治学における投票参加の研究の整理と紹介を行うものである。

2) 現代社会と科学   益川敏英

    基礎科学が社会の中で人々の生活で役立つ様になるまで100年の時間を要する。実際に一つの例を挙げれば、オンネスが、温度は何処まで下げる事が出来るか、という純粋な好奇心から始めた研究で、金属を超低温にすると電気抵抗が無くなるという驚異の現象を見つけた。1911年の事である。
この時期はアインシュタインの光量子仮説に見られる様なミクロな世界の法則が、ニュートン力学やマクスウェルの電磁気学の様なマクロな世界の法則と本質的に異なる事が明らかになってきた時代であった。オンネスの発見も新しい現象かとの見解があったが、当時の科学では解明されず、1957年の超伝導のBCS理論が提唱され、ようやく科学的な理解に到達した。そしてオンネスの発見から100年経った現在、超伝導の技術を用いた新型新幹線の実用化テストが行われるに至っている。科学の発展には時間と巨額な経費が必要である事を理解してほしい。