日本学士院

第50回公開講演会講演要旨

1) 熊本と刑法   松尾浩也

  「刑法」は、国の基本法の一つであるが、肥後熊本の出身者は、日本における刑法の発展に大きく寄与している。宝暦4年(1754年)に成立した肥後藩の「御刑法草書」は、中国の明律等を参照して作られ、国内でもっとも水準の高い刑法典であった。明治維新直後の「仮刑律」の制定に際しては、肥後藩士が東京に呼ばれて起草の任に当たっている。
大正から昭和にかけては、京都大学に冨田山寿(1879 ―1916 )、佐伯千仭(1907 ―2006)、東京大学に平野龍一(1920 ―2004)の三教授があり、刑事法学の進歩に貢献された。いずれも熊本県の出身である。この講演では、熊本人の業績を視野に入れながら、日本における刑法・刑事訴訟法の発展を語りたい。また、刑事法に関して皆さんの関心が高い「裁判員制度」についても触れていきたいと思う。>資料(PDF形式/約2MB)

2) クローン動物生産技術の有効利用   入谷 明

 クローンという語の由来は、ギリシャ語の辞典によると“ klon ” となっており、例えばツバキなどのように挿し木によって作られた同じ遺伝子を持つ生物個体群のことである。動物の場合でも自然に生まれる一卵性の双子もクローンといえる。家畜では 20 年も前から効率的な改良増殖を目標にして、 1 個の受精卵から一卵性の 7 ~10 子が生産されてきた。さらに 12 年前からは、受精卵ではなく、皮膚や毛などの成体の細胞から多数の遺伝的同型個体が生産されるようになってきた。ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ネコなどで成功している。熊本は古くから肉用牛生産が盛んなところであり関心の高い技術ではなかろうか。家畜の改良、希少種の増数、絶滅種の復活、再生医療などにも有効に利用されようとしているこの技術について、本公演で触れていきたいと思う。また、クローン食品の安全性や、クローン技術を使った野生動物、絶滅動物の保護・復活などの巷で議論の多いトピックにも触れていきたい。>資料(PDF形式/約9MB)