日本学士院

第36回公開講演会講演要旨

1) 社会のものごとの“決め方”をどう見るか
—「合意形成」と情報・制度環境—   宮澤健一   

 社会のルールや約束ごとは、はたしてどう決められ、いかに調整されるのか。
論理のレベルでよく知られている定理や原理の見方は、現実の人間から、あらゆる偶然的要素をはぎ取った“純・理性人”を解明の基礎に据える。その著名な例に「民主制の一般的不可能性定理」や「自由優先の正義原理」がある。そうした手法によって、合意形成の基底にある、基本的な特性が明らかにされる。
しかし、同時に大切なのは、現実の“生身の人間”に焦点を当て、具体的で個別的なケースの合意形成の姿を点検することである。登場する人々の立場は多様で、対等性に欠けていたり、既得権や利害調整が働いていたりする。その中から、論理的レベルでは見えにくい因子を識別し、「共通する特性」を探り出すのである。
現実的な実態レベルと原理的な論理レベルとの、次元の異なる両手法による解明は、問題に特有な根底は何かを明らかにすると同時に、日々われわれが担っている社会的決定の性格を浮かび上がらせるのに役立つ。

2) 地震予知はできるか?   上田誠也

 地震は日本を含む世界の多くの地域で悲劇を生んできた。地震災害の軽減には強い耐震建造物を作ることをはじめとする防災対策が必須である。阪神大震災では高速道路も新幹線も無惨な餌食になったし、火災は神戸市を焦土と化した。徹底した防災対策が望まれる。一方、地震予知も大切である。もし、大地震の発生が数週間、数日程度の事前に予告されたら人々の生命を劇的に救うことになるに違いない。地震予知は地球科学最後の大問題の一つといってもいいだろう。
ところが最近では地震予知、特に短期予知はとても出来そうもないという風潮が盛んである。しかし、そのような理由で研究を放棄するのは明らかに誤りである。予知研究は新しい科学として着実に進歩を遂げつつあり、実際に科学的方法によって短期予測に成功した例も多い。地震予知研究の困難さ、それを乗り越えるための新手法の展開について分かりやすく解説したい。