日本学士院

第32回公開講演会講演要旨

1) 今後の日本の企業経営の在り方と商法改正   河本一郎   

 会社合併法制の改正(平成9年)、株式交換・株式移転による純粋持株会社の設立(平成11年)、会社分割制度(平成12年成立予定)と、会社組織に関する商法の改正が相次ぎ、どのような企業組織を選ぶかについての経営者の選択の自由は、大きく広がった。
取締役会の効率化と責任の明確化のための取締役の人数の削減も、企業の自主的行動として急速に進みつつある。自民党商法小委員会の監査役制度の改正案は、これらの企業の自主的行動の進展の妨げとなる。
規制緩和により企業経営者の自由が拡大するのに対し、その不当ないし違法な行為を防止するための役割を果たしているのが株主代表訴訟による役員に対する損害賠償責任の追及である。株主オンブズマンによるこの活動も定着してきた。司法制度改革による弁護士の数の増大が株主代表訴訟にどのような影響を及ぼすか。自民党商法小委員会及び株主オンブズマンによる役員の損害賠償額を限定する法案の実現が及ぼす影響と共に、今後注目すべきことである。

2) 戦後の燃焼研究の推移 —地球温暖化防止に関連して—   辻  廣

 平成9年、京都において地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、温室効果ガスの総排出量削減を定めた「京都議定書」が採択された。温室効果ガスの大半は、化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素によって占められているので、昨今、改めて燃焼の問題に関心が集まり、省エネルギーを達成するための新燃焼技術の開発や基礎研究が活発に行われているが、そのなかで約1000℃以上の高温空気を利用した燃焼技術が、二酸化炭素排出抑制に大きく貢献できる新燃焼技術として注目されている。
第二次世界大戦中に新しい推進機関が出現し、高負荷燃焼が問題となってきたことが契機となって、「反応性ガス力学」という燃焼に関する新しい学問体系が構築され、これによって燃焼の現象論的解明や理論解析は飛躍的に発展したが、高負荷燃焼の研究以降、燃焼公害、大規模火災、エネルギー危機、環境保全など、多様化する各時代のニーズに対応して、どのような燃焼現象を対象にして基礎研究が行われ、またどのようにして新燃焼技術の開発が推進されてきたかの経緯を解説したい。