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日本学士院会員の選定について

日本学士院は、平成30年12月12日開催の第1124回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の9名を新たに日本学士院会員として選定しました。

(1)第1部第1分科
氏名 深沢克己(ふかさわ かつみ) 深沢克己
現職等 京都産業大学文化学部客員教授、東京大学名誉教授
専攻学科目 西洋近世史学
主要な学術上の業績

 深沢克己氏は、西洋近世史の研究者として、フランスの地中海港マルセイユの営むレヴァント貿易の諸相を、未刊行史料を用いて解明し、生産過程を重視する戦後日本の経済史学に対して、地中海流通史の視点から批判的論点を提示し、西洋近世史研究に新生面を開きました。また多文化・多宗教の交錯する海港都市について類型論的考察を深めると同時に、数々の共同研究をも組織し、宗教的寛容と不寛容、異宗教・異宗派の共存と排除をめぐる比較史を構築し、さらに宗教問題を成立背景としつつ啓蒙思想の伝播・発展に貢献した秘密友愛団、フリーメイソンの歴史研究に先鞭をつけ、国内・海外で多くの成果を公表してきました。


【用語解説】

レヴァント
バルカン、トルコ、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル、エジプトを含む東地中海沿岸地方。古来より東西文明交流の十字路になった。
フリーメイソン
正確な起源は明らかでないが、18世紀初頭のロンドンで石工組合をモデルに組織化された国際友愛団で、会則や運営は秘密結社の性格を具えるが、内部では身分や国籍や宗教を超えた自由平等な知的・道徳的交流が追求された。
(2)第1部第1分科
氏名 松浦 純(まつうら じゅん) 松浦純
現職等 東京大学名誉教授
専攻学科目 ドイツ文学・ドイツ思想史
主要な学術上の業績

 松浦 純氏の主著 Martin Luther: Erfurter Annotationen 1509-1510/11(『マルティン・ルター:エルフルト期注記集 1509-1510/11』)は、宗教改革者ルター最初期の現存全資料の校訂・注解・解説により、ルター研究の基礎を築き直し、国際的に高い評価を得ました。なお、本書に対し、平成25年度恩賜賞・日本学士院賞が授与されています。
  またルター研究以外で、松浦氏の注目すべき業績の1つに、『貧者の聖書』があります。この中で同氏は、ラテン語本文翻訳と、ラテン語・中世ドイツ語本文の一部翻刻・翻訳、さらに解題を担当していますが、その際、原著のラテン語本文の翻刻に若干の誤記を発見するなど、同氏の中世ラテン語・ドイツ語の読解力は卓越しています。


【用語解説】

Martin Luther: Erfurter Annotationen 1509-1510/11

Köln/Weimar/Wien: Böhlau Verlag 2009(ケルン/ワイマール/ウィーン、ベーラウ書店、2009年)。

マルティン・ルター(Martin Luther)

16世紀ドイツの宗教改革者(1483~1546)。

『貧者の聖書』
〔ファクシミリ版ヴァティカン写本選集第51巻〕、岩波書店、1985年(荒井 献監修、塩谷 饒との分担訳)。旧約聖書で述べられた出来事は新約聖書の出来事を予め型どっていた、とする「予型論」に基づき、キリストの生涯の一齣々々に旧約の出来事を配して図像化した、図解キリスト生涯記。
翻刻(ほんこく)

元の本の手書きや古書体の本文を現行の活字に組んで印刷すること。

(3)第1部第1分科
氏名 伊藤邦武(いとう くにたけ) 伊藤邦武
現職等 龍谷大学文学部教授、京都大学名誉教授
専攻学科目 哲学
主要な学術上の業績

 伊藤邦武氏は、近現代の哲学において重要な潮流であるアメリカ・プラグマティズムの研究から出発し、それと並行して展開されたヨーロッパの哲学、とりわけ19世紀後半から20世紀のフランス認識論の歴史的研究、さらには宇宙論と経済学に関する科学哲学的研究に取り組み、大きな成果を挙げてきました。そこに一貫して通底しているのは、次の2つの問い、すなわち、哲学は科学研究を特徴づける実証性と人間に内在する超越への希求の関係をいかに反省し、どのように両者を統合して体系的思想を構築しようとしたかという問い、次に、人間の認識と行為は不確実性を免れませんが、それにもかかわらず、それについて蓋然的な信念を形成し、合理的に振舞うことができるという事態を哲学がいかに考え、分析してきたかという問いです。これらの問いを、広くまた深い哲学史的探求を通じて考え抜くことによって、伊藤氏は、「思考」と「行為」を決して分離せず、科学的な実証性と形而上学的な思弁性の総合を目指すプラグマティズムの精神を体現し、現代における哲学のあるべき姿を指し示していると言えます。


【用語解説】

プラグマティズム
19世紀後半以降、アメリカを中心に展開された哲学思想。デカルト以来の意識中心の立場を退け、現実の生における具体的な行為の中で精神活動が果たす役割を見る視点に立って、そこから科学論・道徳観・存在論を改変し直そうという思想。パース、ジェームズ、デューイらによって創始され、現在では分析哲学との結びつきを強めてクワイン、ローティらのネオ・プラグマティズムに引き継がれている。
認識論
認識の起源・本質・方法・限界などについて研究する哲学の一部門。伊藤氏は、最近著『フランス認識論における非決定論の研究』(晃洋書房、2018年)で、ブートルー、ポアンカレ、デュルケームに焦点を絞ってフランス認識論の特質と現代的意義を考察している。
蓋然的な信念
不確定で偶然的な事柄について形成され、行動の指針となる本当らしい見解。例えば、天気予報の降水確率を参考にするのは、蓋然的な信念に従って行動することである。
(4)第1部第2分科
氏名 根岸 哲(ねぎし あきら) 根岸哲
現職等 神戸大学社会システムイノベーションセンター
特命教授、 神戸大学名誉教授、甲南大学名誉教授
専攻学科目 経済法
主要な学術上の業績

 根岸 哲氏は、独占禁止法を中心とする経済法を、法律学の一分野として確立させる上で、大きな役割を果たしました。まず、比較的新しい部門である独占禁止法の全体にわたり、経済学の成果を含む広範囲の資料を駆使して、裁判所や行政機関の実務を支えることのできる、緻密な理論体系を構築しました。根岸氏はまた、運輸、金融、電力、通信などの規制産業の分野を綿密に考察し、競争のメリットが活かせるよう、政府規制を緩和する方向の望ましい事業法のあり方を探り、現代にふさわしい内容の経済法を充実させました。さらに同氏は、経済法に隣接する分野、例えば民法、消費者法、知的財産法等についても精力的に考察を加え、これらにも競争法の役割があることを明らかにし、多くの研究者の支持を得ました。


【用語解説】

独占禁止法
正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」という名称で、1947(昭和22)年、アメリカ法を母法として制定された。カルテル・談合や市場を支配するような合併などによって、競争が妨げられることのないよう、公正取引委員会が中心になって、この法律を施行している。
経済法
経済法という名の法律が制定されているわけではなく、企業の経済活動にかかわりがとくに深い分野の法律群をまとめて呼ぶときに、この名称を使う。第2次大戦前は、ドイツ法の影響を受け、経済統制法を中心に、この分野の研究が行われていた。
(5)第1部第2分科
氏名 中山信弘(なかやま のぶひろ) 中山信弘
現職等

東京大学名誉教授、弁護士(西村あさひ
法律事務所オブカウンセル)

専攻学科目 知的財産法
主要な学術上の業績

 中山信弘氏は、知的財産権を、所有権類似の物権的な権利ではなく、産業政策などの政策実現の手段と捉える立場から、技術の進展への知的財産制度の柔軟な対応の必要性を提唱し、その法分野の解釈・立法を主導してきました。とりわけ、昭和60年に著作権法による保護の対象に加えられたコンピュータ・プログラムなどについて、既存の著作物(小説、絵画、音楽等)とは異なる解釈上・立法上の配慮が必要であること、および、デジタル環境では著作者・著作物概念に変容が生ずること等を指摘して、著作権法の解釈および制度の見直しの方向を提示しました。
  また中山氏は、知的財産法を、民法・独占禁止法等と関連する財産的情報の保護制度の一つとして私法体系の中に位置づけることによって、知的財産法が法体系全体の中で整合的に発展する理論的基礎を提供しました。


【用語解説】

知的財産権
発明、著作物のように人間の創造的活動により生み出されるもの、商標のように事業活動に用いられる商品・サービスを表示するもの等、財産的価値のある情報(無体物)について、その権利者(発明者、著作者等)が、その複製などの利用行為について、独占することを認める権利。特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権などが含まれる。
コンピュータ・プログラム
コンピュータを機能させてある結果を得ることができるように、コンピュータに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの。プログラムを作ることをプログラミングといい、プログラミングには、プログラミング言語と呼ばれる人工言語が用いられる。コンピュータ・プログラムは、昭和60年の著作権法の改正によって、著作権法上の著作物の1つに加えられた。
(6)第1部第3分科
氏名 大塚啓二郎(おおつか けいじろう) 大塚啓二郎
現職等

神戸大学社会システムイノベーションセンター
特命教授、日本貿易振興機構アジア経済研究所
上席主任調査研究員、神戸大学大学院経済学
研究科特命教授

専攻学科目 経済学
主要な学術上の業績

 大塚啓二郎氏は、開発経済学の研究者として、アジア及びアフリカを中心として独自の現地調査と実証分析を行い、国際的に評価の高い研究業績を挙げるとともに、その成果を新たな開発戦略の構築と実際の開発政策に活かしてきました。
  特に4つの分野、(1)アジアにおける「緑の革命」とそのアフリカでの実現可能性、(2)地主・小作契約や農地の所有権を含む土地制度と効率性、(3)教育と非農業部門の発展の役割を中心とした貧困削減、および(4)開発途上国における工業化と産業集積の発展、に関する研究において顕著な業績を挙げてきました。また、多くの国際共同研究プロジェクトを様々な開発途上国で組織するとともに、関連する国際学会・研究機関で中心的な役割を果たしてきました。


【用語解説】

開発経済学
開発途上国の経済社会構造や経済成長メカニズムを分析することにより、貧困削減や開発政策の立案に理論的および実証的な基礎を提供する経済学の一分野。
緑の革命
高収量品種または近代品種と呼ばれる肥料感応型の改良品種の開発と普及によって、1960年代以降、熱帯アジアで米や小麦が大幅に増産可能となったことを指す。
産業集積
同一産業ないし関連産業に属する多数の企業と労働者が、相互補完性による生産性向上の効果により、特定地域に集まる現象。
(7)第2部第4分科
氏名 大隅良典(おおすみ よしのり) 大隅良典
現職等 東京工業大学科学技術創成研究院特任教授
専攻学科目 分子細胞生物学
主要な学術上の業績

 大隅良典氏は、酵母の液胞の研究を通じて、細胞が飢餓状態に対応するために自己の成分(タンパク質やオルガネラ)を分解するしくみ「オートファジー」に必要なAtgタンパク質群の同定に成功し、それらが、細胞質の一部を隔離・輸送するオートファゴソームの形成のために必須な因子であることを突き止めました。そして、Atgタンパク質の機能の解析を進め、複数の機能単位に分類されることを示し、オートファジーの基本的分子機構を明らかにしました。オートファジーは、飢餓応答のみならず、細胞内の浄化、損傷オルガネラの除去、感染菌やウィルスの分解、免疫、寿命、さらには多くの疾患に関係しており、生命科学や医学の進歩に大きく貢献しています。


【用語解説】

液胞
細胞内にある膜に囲まれた区画の1つ。内部が酸性で分解酵素を含んでいる。
オルガネラ
細胞小器官ともいう。細胞内にあって独自の機能を営む構造体。核、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、リソソーム、液胞などが含まれる。
Atg (Autophagy related gene)
オートファジー関連遺伝子群。
オートファゴソーム
オートファジーの過程で、細胞質成分やオルガネラが隔離膜とよばれる膜で取り囲まれる。この構造体をよぶ。これがリソソームと融合しオートリソソームとなって、内容物が分解される。
大隅氏の業績

酵母が飢餓状態におかれると、自己の成分を分解し再利用して生き延びる。このために、隔離膜が細胞内成分やオルガネラを取り囲み、オートファゴソームを形成して液胞と融合し、内容物の分解へと進む。大隅氏は、この過程に必要なAtgタンパク質群を発見、機能の研究を行った。

(8)第2部第4分科
氏名 鈴木啓介(すずき けいすけ) 鈴木啓介
現職等 東京工業大学理学院教授
専攻学科目 有機合成化学
主要な学術上の業績

 鈴木啓介氏は、生理活性天然有機化合物の全合成、および、基礎的な合成反応の開発研究を行いました。自然界の生理活性化合物の中には、入手源などの制約から稀少なものもあります。その場合、有機合成による供給が期待されますが、複雑な構造を持つ化合物の場合には容易ではありません。鈴木氏は、従来困難であった多くの不斉中心官能基を持つ化合物の合成を、新たな合成反応の開発や合成経路の設計により実現してきました。反応開発では高反応性化学種を活用し、斬新で有用な分子構築法や立体制御法の開発につなげた一方、合成研究では糖質やテルペンポリケチドなどの生合成の異なる構造が複合化した標的に関し、数々の全合成を実現しました。


【用語解説】

不斉中心
4つの異なる置換基を有する正四面体形(炭素)原子のことで、不斉炭素ともいう。不斉中心が1つある分子では、一対の鏡像異性体がある。
官能基
有機化合物の分子構造の中で、少数の原子と結合からなる部分構造として、その分子の性質を左右する。
テルペン
植物の精油成分に含まれる炭素数5の単位から成る小分子群である。多様な分子構造があり、中には独特の香気や風味を持つものも多い。
ポリケチド
生合成経路の1つで、酵素の制御下、酢酸単位の多重縮合により生成するポリケトン鎖が様々な修飾を受け、マクロリド抗生物質、多環式芳香族化合物、ポリフェノール類など、多彩な構造の有用生理活性物質が生合成される。
鈴木氏の業績
(9)第2部第6分科
氏名 丸山利輔(まるやま としすけ) 丸山利輔
現職等 石川県参与(県立大学担当)、 京都大学名誉教授
専攻学科目 水環境工学
主要な学術上の業績

 自然界では「水」は、主に太陽エネルギーによって、地球上を氷、水、水蒸気と形を変化させながら循環しています。この水循環は地上での物質循環の主役を担っていますが、丸山利輔氏は灌漑排水学の立場から、その主要過程である「蒸発散」と「流出機構」について河川流域を単位とする研究を行いました。前者については、気象観測から得られる温度•湿度の測定値とエネルギーの保存則を連立させて蒸発散量を推定する「逆解析方式」を開発し、後者については、広域にわたる耕地の灌漑における用•排水システムの解明を可能にした「昇順方式」と「複合タンクモデル」を開発しました。これらは、現在、主要河川の流域における水資源の利用と灌漑排水計画の立案に広く利用されています。


【用語解説】

灌漑排水学
耕地や林地を主な対象とし、作物と水の関係、水利システムの構成と特徴、灌漑と排水の理論と実際、生態系保全のための灌漑・排水の在り方などを研究する。
蒸発散
自然の地表面からの蒸発には、水面や土壌面からの蒸発の他に、植物の蒸散(植物体内の水分が空気中へ発散する作用)が含まれている。両者は厳密には区別できないため、蒸発散と呼ばれている。
複合タンクモデル
河川水系をいくつかのブロックにわけ、その中に土地利用、水源に応じて、直列型のタンクを設ける。この直列型のタンクを組み合わせ、農業用水を中心とした1つの河川水系の水需給の状況をダイナミック、かつ定量的に分析するためのモデル。
丸山氏の業績

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