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日本学士院会員の選定について

日本学士院は、平成26年12月12日開催の第1084回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の11名を新たに日本学士院会員として選定しました。

(1)第1部第1分科
氏名 間野英二(まの えいじ) 間野英二
現職等 京都大学名誉教授、龍谷大学客員教授
専攻学科目 西南アジア史
主要な学術上の業績

 間野英二氏は、テュルク文献学と中央アジア史の解明に大きな貢献をしました。テュルク文献学としては『バーブル・ナーマ』の研究が特筆に値します。同書は15世紀末の中央アジアに生まれ、アフガニスタンを経て、インドにムガル朝を開設したバーブルがその経験と見聞をチャガタイ・テュルク語で著した回想録です。中央アジア史については、14-16世紀のティムール朝史とモグーリスターン・ハン国史を扱った研究があります。また、中央アジア史を、シルクロードを媒介とする東西交渉史としてのみ捉える傾向のあった従来の説を修正し、北の遊牧民と南の定住農耕民の関係、すなわち南北の関係をより重視して解明すべきであるという新しい視点を導入しました。


【用語解説】

〇テュルク文献学
7-8世紀以来、中央アジアや西アジアのテュルク(トルコ)民族が、碑文テュルク文字(テュルク・ルーン体文字)、古ウイグル文字、アラビア文字等を使って書き残した碑文テュルク語、古ウイグル語、カラ・ハン朝テュルク語、チャガタイ・テュルク語、オスマン・トルコ語などのテュルク語資料(碑文、文献)を言語学的、歴史学的に研究する学問。
〇『バーブル・ナーマ』
15世紀末の中央アジア(現ウズべキスタン)に生まれ、アフガニスタンを経て、16世紀前半のインドにムガル朝を創設したバーブルがチャガタイ・テュルク語で著した回想録の傑作。15-16世紀の中央アジア、アフガニスタン、インドの政治、経済、社会、地理、文化を研究するための第一級の史料。現在、一般読者向けに、間野英二(訳注)『バーブル・ナーマ ムガル帝国創設者の回想録』全3巻(平凡社、東洋文庫)が刊行中である。
〇チャガタイ・テュルク語
15世紀、ティムール朝治下のヘラート(現アフガニスタン)やサマルカンド(現ウズベキスタン)で発達し、20世紀初頭まで中央アジア、南ロシアなどで使用されたテュルク語の文章語。アラビア文字を使用。テュルク語であるが、ペルシア語の強い影響がみられる。この言葉で書かれたアリー・シール・ナヴァーイーの諸作品が名高く、ナヴァーイーは中央アジアで文化的英雄とされている。
〇ティムール朝
1370年-1507年、中央アジアを中心にイラン、アフガニスタンを支配したテュルク(トルコ)系イスラーム王朝。創設者はティムール。この王朝の治下に、建築、歴史学、文学、製本技術、絵画、書道などが発達し、ティムール朝文化と呼ばれる華やかなイスラーム文化を生んだ。現在もサマルカンドに残るこの時代の建築群は世界文化遺産に登録されている。
〇モグーリスターン・ハン国
モンゴルの四ハン国の一つ、チャガタイ・ハン国は、14世紀の半ば、パミール高原を境に東西に分裂したが、その東半部の国家。東チャガタイ・ハン国ともいう。西半部が急速にテュルク化・イスラーム化していったのに対し、この国の住民は長く遊牧生活を続け、モンゴル的伝統を保持した。
(2)第1部第1分科
氏名 田代和生(たしろ かずい) 田代和生
現職等 慶應義塾大学名誉教授
専攻学科目 日本史
主要な学術上の業績

 田代和生氏は、主として対馬藩主の宗家に伝来した宗家文書をもとに、多年江戸時代の日本と朝鮮の関係について研究し、多数の論文や著書を通じて学界に大きく貢献してきました。その研究分野は多岐にわたりますが、主要なテーマは、第1に日本・朝鮮の外交・貿易の研究、第2に朝鮮から輸入された薬材の研究、第3に対馬藩の対朝鮮交渉に大きな役割を果たした雨森芳洲の研究などです。特筆されるのは、幕藩体制下で行われていた朝鮮との通交と貿易の詳細を実証的に明らかにしたことで、これは学界の動向に先駆けて日本のいわゆる「鎖国」を再検討させる意義を持ちました。その独創性と先見性に富む業績は日本だけでなく、韓国、アメリカをはじめ海外の学界でも高く評価されています。


【用語解説】

〇対馬藩
正式には府中藩という。藩主の宗氏(そうし)は、対馬島主として中世以来、朝鮮半島との外交・貿易を行ってきた家柄で、江戸時代においても、対朝鮮関係の処理と貿易を幕府から独占的に認められていた。
〇宗家文書
藩主の宗氏の家に伝わった厖大な古文書群で、現在は明治以降のさまざまな事情により、国内6ヶ所と韓国の計7ヶ所に分蔵されている。
〇雨森芳洲(あめのもり ほうしゅう)
1668(寛文8)年に生まれ1755(宝暦5)年に没した儒学者。木下順庵の門下で、順庵の推薦によって対馬藩に仕え、朝鮮王朝との外交を担当した。朝鮮との外交を振り返りその課題を論じた『交隣提醒』(こうりんていせい)を著わし、朝鮮語研究の必要も説いている。
〇鎖国
1633(寛永10)年以降のいわゆる鎖国令に基づく対外関係。用語としては幕末以降に一般化した。日本人の海外渡航の禁止、外国人の来日や外国貿易の統制などで、国を鎖したとされがちであったが、近年は長崎での関係だけでなく、朝鮮との国交、琉球と清との外交関係、蝦夷地での交易などを考慮して、その意義付けの再検討が図られている。
(3)第1部第2分科
氏名 村松岐夫(むらまつ みちお) 村松岐夫
現職等

京都大学名誉教授、(独)日本学術振興会
学術システム研究センター副所長

専攻学科目 政治過程論・行政学
主要な学術上の業績

 村松岐夫氏の研究業績は、「戦前戦後断絶論」に立ち、国の行政官僚制の活動及び中央地方関係を含む地方自治体の活動を政治過程の中に位置づけ、これを行動科学の発想と方法に基づいて実証的に分析したものです。その特徴は、規範的な色彩の強い通説への批判、理論仮説を立てその妥当性を客観的なデータに基づいて検証する理論化指向と実証研究指向、そして「エリート・サーベイ手法」の活用にあります。
 村松氏の一連の研究は、わが国の政治学界において、「日本型多元主義論」と総称される研究潮流や、近年に至って隆盛の萌しを見せている地方自治を政治学的に分析する「地方政治論」の研究潮流を生み出すという大きな貢献を成し遂げました。


【用語解説】

○戦前戦後断絶論
戦前の政治構造と戦後の政治構造とは大きく異なっているとする理論仮説で、戦後の政治構造には戦前の政治構造を継承している側面が多いとする「戦前戦後連続論」と対比される。
○エリート・サーベイ手法
政界・官界など各界のエリートを対象にした面接調査・アンケート調査を実施し、政治権力構造に関するかれらの状況認識とみずからの役割意識などを解明する研究手法。
○日本型多元主義論
「多元主義論」とは、現代先進諸国の政治構造は少数のパワー・エリートによって支配されている政治構造ではなく、政界・官界・経済界・労働界・各種業界などの多元的に分立する政治主体が相互に影響力を行使し合っている政治構造であるとする理論仮説。そして「日本型多元主義論」とは、戦後日本の政治構造は西欧先進諸国のそれらと全く同じとは言えないものの、基本的には政治権力が多元的に分立している政治構造であるとする理論仮説。
○地方政治論
個々の地方自治体の内部はもとよりのこと、地方自治体間関係や中央地方関係においても、首長のみならず地方議会議員やその全国連合組織等々の多元的な政治主体が相互に影響力を行使し合っている状況が見られるとし、その政治構造を実証的に解明しようとしている新しい研究潮流。
(4)第1部第2分科
氏名 江頭憲治郎(えがしら けんじろう) 江頭憲治郎
現職等

東京大学名誉教授、
早稲田大学大学院法務研究科教授

専攻学科目 商法学
主要な学術上の業績

 江頭憲治郎氏の業績は、商法の全領域に及び、各分野において最高の成果を挙げていることにあります。現代の商法学は、その領域が広がるとともにそれぞれが専門化しているために、実際にその全領域の研究を行い得ている商法学者は稀であるところ、江頭氏の研究は、商法学の全領域に及んでいるだけでなく、各領域において、卓越した研究を成し遂げ、商法学界全般をリードしています。その研究の特徴は、徹底した実証的調査と完璧な比較法的研究に加えて、ファイナンス理論、会計学、統計学等、他の専門分野の成果を取り入れて、明確な解釈論・立法論に導いている点にあります。


【用語解説】

○ファイナンス理論
ファイナンス理論は、投資理論、すなわち投資対象資産の価値評価、リスクとリターンとの関係などを取り扱う理論、および、企業金融理論、すなわち企業の最適資本構成、配当政策などを取り扱う理論等からなるミクロ経済学の一分野である。
(5)第1部第3分科
氏名 斎藤 修(さいとう おさむ) 斎藤 修
現職等

一橋大学名誉教授、
一橋大学経済研究所特任教授、
お茶の水女子大学監事

専攻学科目 比較経済史・経済発展論
主要な学術上の業績

 斎藤 修氏が追求してきた研究を一言でいえば“世界経済史の再構築”です。それも、かつての発展段階論のようにドグマティックな図式ではなく、アダム・スミスマルサス以来、経済学、経済発展論、人口学それぞれの領域で追及され、理論化されてきた普遍命題と、実証的な歴史研究が明らかにしてきた発展過程における現実の多様性とを、国民所得論投入産出表生命表などの分析用具を利用しつつ統一的かつ整合的に理解することを目的としています。斎藤氏の研究領域は、一国経済史という枠を超えて広く世界に視野を置いた比較経済発展論であり、実際には経済史と歴史人口学の両分野にまたがっています。対象とする期間は近世から近代にいたる数世紀に及び、また日本を実証の主なグラウンドとしながらも、比較対象である地域は西欧からアジアにわたります。国際的な場でも、かつてのプロト工業化論争、近年の大分岐論争などに参加し、積極的な発言を続けています。


【用語解説】

○発展段階論
社会経済の歴史的発展過程をいくつかの段階に区分する学説。さまざまな定式化があるが、いずれも継起的序列に法則性をみる点に特徴がある。
〇アダム・スミス(1723-1790)
イギリスの哲学者で経済学の確立者。主著『国富論』で分業と市場の役割を強調、これら二つを中核にすえた経済発展論を提唱した。
〇マルサス(1766-1834)—トマス・ロバート・マルサス
イギリスの経済学者。主著『人口論』で人口と資源の関連を検討し、経済発展における人口の役割を初めて体系的に論じた。
〇国民所得論
マクロ経済統計にとっての国民所得論とは、ある国の国民が一期間内に生産した財とサービスを整合的に集計するための勘定体系を意味する。
〇投入産出表
財・サービスの投入と産出からみた産業間の相互依存関係を行列(マトリクス)表として表現したもの。産業連関表ともいう。
〇生命表
ある人口集団の死亡率・生存率・平均余命が、年齢が零歳より順次上がってゆくにつれてどのように変化してゆくかを示した表。
〇プロト工業化論争
1980年代に、F・メンデルスのプロト工業化論をめぐって経済史学界で行われた世界的な論争。産業革命とそれに先立つ農村工業化との関連、その過程における人口の役割などが論じられた。
〇大分岐論争
2000年以降、K・ポメランツ著の『大分岐』をめぐって現在も続いている世界的な論争。近世以降の西欧とアジアにおける生活水準の測定と比較、市場経済発展の水準と役割などが主要な論点となっている。
(6)第2部第4分科
氏名 和田英太郎(わだ えいたろう) 和田英太郎
現職等

(独)海洋研究開発機構フェロー、
京都大学名誉教授、
人間文化研究機構総合地球環境学研究所
名誉教授、
公益財団法人日本地球惑星科学連合フェロー

専攻学科目 同位体生態学
主要な学術上の業績

 和田英太郎氏は、海洋中の海水や生物について窒素の安定同位体・窒素15の濃度を調べ、生物体中の濃度が食物連鎖に沿って順々に高くなっている事実を世界に先駆けて発見しました。その後、各地の生態系や実験室中の培養でも同じ関係が成り立つことが和田氏はじめ多くの研究で確立され、このことを利用して生態系の構造を解析する「安定同位体生態学(Stable Isotope Ecology)」と呼ばれる分野が生まれました。この分野の方法は多数の協力により広域の生物群集の調査を可能にする点で優れており、同氏は、同位体生態学の発展を国内外でリードして来ました。
 同氏はまた、窒素と炭素の安定同位体に着目し、両者の濃度を組み合わせた同位体フィンガープリント法を提唱し、各地の生態系の食物連鎖網を明らかにしています。


【用語解説】

○安定同位体・窒素15

多くの元素の原子にはわずかながら質量の異なるものが含まれている。窒素の場合、原子核は陽子・中性子各7個からなり質量数は14だが、中性子8個質量数15の重いものがある。この原子核は安定で、原子は窒素の安定同位体(窒素15)と呼ばれる。化学的には同一で、たんぱく質など窒素化合物中に微量ながら必ず含まれる。化学反応において、同一反応でも同位体は反応速度に差があり、それが反応によるものであるため、分析すると対象物がどのような反応でできたか推定できる。食物連鎖の場合、生物体を維持する代謝過程の反応で同位体濃度の変化が起こると考えられる。

○同位体フィンガープリント
生物体(一般に物体)を調べるとその生成経路や反応機構に応じて分子内の同位体分布、各臓器(各部分)や個体全体の同位体濃度が異なっている。そこで複数の元素の原子について同位体濃度や存在のし方を見ると対象物の生まれ育ちが分かる。指紋(fingerprint)にみたて、安定同位体フィンガープリントと和田氏が名づけた。
同位体生態学へ
(7)第2部第4分科
氏名 巽 和行(たつみ かずゆき) 巽 和行
現職等

名古屋大学物質科学国際研究センター

特任教授、
名古屋大学名誉教授
専攻学科目 無機化学
主要な学術上の業績

 巽 和行氏は、理論無機化学で業績をあげた後、独創的な遷移金属カルコゲニド錯体化学分野を開拓しました。これらの成果を、ニトロゲナーゼやヒドロゲナーゼなどの還元系金属酵素活性中心の生物無機化学研究へと展開し、複雑かつ不安定でこれまで極めて困難とされていた金属硫黄クラスター活性中心のモデル錯体を世界に先駆けて合成しました。また、アセチルCoA合成酵素活性中心のモデルとなるニッケル二核錯体も合成し、本酵素の反応サイクルモデルを達成しました。このように、巽氏は合成した活性中心モデル錯体を用いて、酵素機能を解明する学術的基盤を確立するとともに、金属酵素に凝縮された自然の巧みな仕組みを解明する端緒を拓きました。


【用語解説】

○遷移金属カルコゲニド錯体化学
硫黄やセレンなどの第16族元素(カルコゲン)またはそれを含む分子が遷移金属に結合した錯体化合物を研究対象とする化学。
○還元系金属酵素
自然の還元反応を触媒する金属酵素(金属元素を活性中心に含む酵素の総称で、生命活動の中核的役割を担う)。酸化系金属酵素に比べて生化学研究および化学研究が遅れていた。
○金属硫黄クラスター
複数個の金属原子(鉄原子など)や硫黄原子が結合して形成される分子。
○アセチルCoA合成酵素
一酸化炭素とメチル源(メチルコバラミン)を用いて補酵素Aの末端チオールをアセチル化する金属酵素で、自然界の炭素固定経路の一つを担う。活性中心にニッケル2原子と鉄硫黄クラスターを持つ。
還元金属酵素のクラスター活性中心
(8)第2部第5分科
氏名 赤﨑 勇(あかさき いさむ) 赤﨑 勇
現職等

名城大学終身教授、
名古屋大学特別教授・名誉教授、
名城大学窒化物半導体基盤技術研究センター長、
名古屋大学赤﨑記念研究センターリサーチ・フェロー

専攻学科目 半導体工学
主要な学術上の業績

 赤﨑 勇氏は、1973年に青色LED発光素子に必要な高品質窒化物半導体結晶GaN-窒化ガリウムなど)の作製に着手し、GaN結晶とサファイア基板結晶の間に特殊な薄い層を設ける技術を開発することで、高品質GaN結晶の作成に成功しました。更に、その高品質GaN半導体結晶にマグネシウムを添加することで、原理的に不可能と考えられていたp型電気特性をもたせることにも成功しています。この成功によりGaN結晶でp-n接合青色発光ダイオード及び青色レーザ素子を実現しています。これらの世界に先駆ける研究は、青色LED照明や青色レーザを始めとする今日の窒化ガリウム系半導体産業の原点にあり、特に、青色LED発光素子は低消費電力の白色LED照明ランプとして世界的に普及し始めています。


【用語解説】

○高品質窒化物半導体結晶(GaN-窒化ガリウム)
窒化ガリウム(GaN)は、エネルギーギャップが大きく、高効率発光が期待されることから、青色発光素子用材料として世界中で研究されてきたが、高品質単結晶の作製が極めて困難であり、また、素子作製に必須のp型は出来ないとの理論も出されており、1970年代後半には多くの研究者が徹退した。なお、実際の発光素子には、GaNをベースに、AlGaN、GalnN、AlGaInNなどが使われている。
○p型(半導体)
(荷電子の抜けた)正孔が伝導電子より多い(電気的にプラスの)半導体。
○n型(半導体)
伝導電子が正孔より多い(電気的にマイナスの)半導体。
LEDとは
LED技術の波及
(9)第2部第5分科
氏名 吉川弘之(よしかわ ひろゆき) 吉川弘之
現職等

東京大学名誉教授、
(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター長、
(独)日本学術振興会学術最高顧問、
(独)産業技術総合研究所最高顧問

専攻学科目 機械工学・一般設計学
主要な学術上の業績

 吉川弘之氏の研究は、初期の精密加工学に関するものを除き、複雑化統合化が進む現代の工業製品や建造物の全体を見通すことのできる一般設計学、およびそれらを人工物総体として社会への影響を考察、検討する人工物工学の提唱を中心とするものです。
 一般設計学は、分野毎の工学の設計行為の背後にある共通原理を見出し、複雑化した技術の困難を克服するもので、環境保全工学、ライフサイクル学、サービス工学などの新しい分野を生み出しつつあります。吉川氏が行った危険な環境で作業する保全ロボットの研究(1984)は、今日の事態を予見した卓越した研究だったと言えます。
 また人工物工学は、人工物の設計、生産、使用、保全および再利用までを扱う新しい工学で、その結果、今後の科学技術の方向性について、持続可能な社会の実現に向けての役割を果たすべきという主張に到達しており、この考え方は、1999年の世界科学会議(ブダペスト会議)の宣言書において追認されました。


【用語解説】

○一般設計学
一般設計学は、工学の各分野で行われている設計行為の背後に共通の原理があることを発見し、それを体系化したものである。それを学ぶものは設計とは何かを理解し、そのうえで機械、電気などの知識を学んで設計を行うので、製品の使用、保全などが合理的に行われるようになり、社会に深く浸透した人工諸製品のリスクを制御する技術が展開中である。
○人工物工学
人工物工学は、我々の環境、したがって行動に人工物が与える影響の背後にある学問のうち、工学の部分を統合的に扱うものである。
人工物工学は1992年に吉川氏によってはじめて使われた言葉であるが、この考え方は、国際科学会議(ICSU)が主催した1999年の世界科学会議(ブダペスト会議)の宣言書において、領域を超えた科学知識の安定的使用が世界にとって必要であるという形で追認された。
(10)第2部第5分科
氏名 長尾 真(ながお まこと) 長尾 真
現職等

(独)科学技術振興機構特別主監、
京都大学名誉教授

専攻学科目 知能情報学
主要な学術上の業績

 長尾 真氏は、永年、画像および言語のコンピュータを用いる情報処理の研究に力を注ぎ、初期のパターン認識や画像処理から最近の機械翻訳、電子図書館に至る広い分野で優れた研究成果を挙げました。
 中でも、フィードバック解析機構を導入した顔写真の認識システムや黒板モデルを用いた複雑な航空写真の解析システムは、人工知能的手法による画像処理の分野を開拓したものとして国際的に大きな影響を与えました。
 さらに、アナロジーによる機械翻訳という新たな翻訳方式を提案し、世界的に注目を集め、最近では世界の多くの機械翻訳システムにこの方式が用いられるようになって来ています。
 また、「電子図書館アリアドネ」として、単に書物をデジタル化するのではなく、目次(章、節)を使い書物を構造化し、書物の一部分を取り出したり、書物の中の重要語を通じて他の書物にリンクできる機能を実現しています。
 このシステムを基礎として国立国会図書館長在任中は210万冊に上る資料のデジタル化を行い、世界的にも優れた電子図書館を建設し、全国の大学図書館、公共図書館へのネットワーク配信も可能としました。

 以上のように、長尾氏は、画像および言語の知的情報処理に関して、世界的に輝かしい業績を残し、学術分野のみならず社会に対しても大きな貢献をしました。


【用語解説】

○フィードバック解析、黒板モデル
複雑な認識対象に適用して良い結果を出す人工知能プログラムの名称。
○アナロジーによる機械翻訳
ある文(数語からなる句)が目的言語でどのように訳されているかをコンピュータに記憶させ、類似の文が現われたら記憶していた文の訳に似せ(analogy)て訳文を作り出すという「アナロジーによる機械翻訳」を確立した。これは「用例主導翻訳方式」と名付けられ、世界で広く用いられている。
○電子図書館アリアドネ
アリアドネが追求したものは、人間の頭脳における知識構造のように、知識の有機的統合と活用がうまく出来るようなシステムを作ることであった。これは1994年に作られたが、将来の電子図書館の在り方を示すものとして、現在あらためて注目されている。
(11)第2部第7分科
氏名 審良静男(あきら しずお) 審良静男
現職等

大阪大学WPI免疫学フロンティア研究センター
拠点長・教授、
大阪大学微生物病研究所教授、
大阪大学特別教授、
(独)理化学研究所統合生命医科学研究センター
特別顧問、
兵庫医科大学名誉教授

専攻学科目 免疫学
主要な学術上の業績

 審良静男氏は、遺伝子の塩基配列の検索によってショウジョウバエのTollと同じ構造を持つマウスの12の遺伝子を発見し、その一つ一つが欠損したマウスを作ることによって、9種類のToll-like receptor(TLR)と、そのリガンドを同定しました。そして、これらのTLRに細菌やウイルス由来の構成成分(リポ多糖、リポ蛋白、フラジェリン、核酸など)が結合すると、どのような生化学的機序によって炎症性サイトカインインターフェロンが作られて、生体が病原体と戦うかという自然免疫の機序を明らかにしました。また、審良氏の研究は、リンパ球を中心とする獲得免疫が効果的な感染防御を発揮するためには、自然免疫の活性化が必須であることを明らかにしました。


【用語解説】

○Toll
もともとハエの発生において背腹軸の決定に関わる膜結合型受容体として同定されたが、その後1996年にフランスのJules Hoffmann(2011年ノーベル賞受賞)のグループによってハエの感染防御においてカビに対する抵抗性に必須の分子であることが判明した。
○Toll-like receptor(TLR)
ハエのTollに相同性のある遺伝子がヒトを含む脊椎動物において発見され、哺乳動物では10数個からなるファミリーを形成しており、個々に異なる病原体成分を認識することにより、種々の病原体の侵入を感知するセンサーとして働いている。
○リガンド
TollやToll-like receptorに結合し、それらの受容体を活性化する物質。
○炎症性サイトカイン
各種細胞から産生され、他の細胞に作用することにより炎症反応や免疫応答を引き起こす生理活性蛋白質の総称。インターロイキン1、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン6などが知られている。
○インターフェロン
ウイルス感染に伴って細胞から産生される生理活性蛋白質で、抗ウイルス作用がある。
○自然免疫
病原体の侵入に際して、最初に発動される免疫応答で、白血球・マクロファージ・樹状細胞などのいわゆる食細胞によって担われる。TLR発見以前は、広く下等生物にも存在するため、無差別に病原体を貪食するだけの原始的な免疫反応と考えられていた。
○獲得免疫
脊椎動物にしか存在しない高度な免疫システムで、T細胞・B細胞からなるリンパ球によって担われている。抗体産生やキラーT細胞の誘導に関わる。病原体を個々に区別するだけでなく、一度感染した病原体を記憶し、二度目には速やかに病原体を処理しうる。

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日本学士院会館