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日本学士院新会員の選定について

日本学士院は、平成24年12月12日開催の第1064回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の4名を新たに日本学士院会員として選定しました。
今回の選定で会員数は135名となります。

(1)第1部第1分科
氏名 苧阪直行(おさか なおゆき) 苧阪直行
現職等 京都大学名誉教授
専攻学科目 認知心理学・認知科学
主要な学術上の業績

 苧阪直行氏は、“脳のメモ帳”の役割を演じる「ワーキングメモリ」を「目標志向的な課題や作業の遂行に関わるアクティブな一時的記憶」ととらえ、その容量を測定する心理実験の結果と機能的磁気共鳴画像法など脳の活動部位との関係から、「ワーキングメモリ」における個人差の解明と、「ワーキングメモリ」が前頭前野と前部帯状回皮質などのネットワーク結合を背景に、注意を制御するメカニズムについて知見を得ています。
 苧阪氏は、ワーキングメモリを含む行動指標と脳イメージングの関係から意識の三層モデルを提案し、最上層に「意識はそれ自身を意識する」とする再帰的意識を置き、前頭葉皮質に形成されると考えます。意識と注意という経験的に取り扱い難い対象を「ワーキングメモリ」の枠内で、行動的指標と認知脳科学的手法を駆使して、認知科学的に解明するアプローチを示したものとして高く評価されます。


【用語解説】

○ワーキングメモリ
作業記憶あるいは作動記憶とも呼ばれる。容量制約的環境で働き、情報が時間的制約のなかで統合される働きが含まれ、プランを立てたり予測したりする創造的知性の働きを担っている。
○機能的磁気共鳴画像法(fMRI=functional Magnetic Resonance Imaging)
MRI(磁気共鳴画像法)装置を利用して、人の脳の血流変化などを測定し、脳の働きなどを観察するために用いる方法の一つ。
○脳イメージング
心の働きを脳活動の画像化を通して観察する方法。
○意識の三層モデル
基底(第一層)には覚醒という生物的意識が、脳の深部の脳幹や大脳基底核などの働きで制御され、その上に第二層として外的環境を認識し、また行動適応する知覚的及び運動的意識(アウェアネス)の領域があり、辺縁系と新皮質の相互作用から生まれると考える。さらに、トップの第三層として自己と他者を結びつける再帰的(リカーシブ)意識を想定し、これは前頭葉を中心とした社会脳ネットワークが担うとする。知覚や言語性ワーキングメモリの働きを取り入れた意識の階層モデル、を想定している。
○認知科学
人間の心の知的な働きを解明しようとする基礎的な研究領域。方法論、とくに理論的側面においては、コンピューター上へのモデル化を中心に、より高度な形式性を要求する特徴がある。
(2)第1部第2分科
氏名 佐藤幸治(さとう こうじ) 佐藤幸治
現職等 京都大学名誉教授
専攻学科目 憲法学
主要な学術上の業績

 佐藤幸治氏は、その憲法理論を、司法権と基本的人権の問題分野を軸として展開してきました。これらの主題は、明治以来ヨーロッパ大陸法系の思考伝統を引きついできた日本の憲法学にとっては、日本国憲法下で新しく主要な研究分野となったものであり、佐藤氏の業績は、学界の研究水準を一段と高めるのに画期的な貢献を果たしてきました(『憲法訴訟と司法権』『現代国家と司法権』『現代国家と人権』)。民主主義と司法審査制の間の原理的緊張をふまえた上での司法制度と政治制度の統合的な理解、人格的自律の概念に即した幸福追求権解釈に基づく包括的基本権理論など、同氏の問題提起は学界に新鮮な刺激を与え、後続世代による多くの実りある研究を先導し続けています。(同氏の最近作に『日本国憲法論』[2011]がある)。


【用語解説】

○司法審査制
裁判所が憲法を基準として立法(法律)以下の国家行為の効力を審査する制度を違憲審査制と言い、その中で、特別の憲法裁判所でなく普通の司法裁判所が審査をする制度(憲法81条)が、司法審査制と呼ばれる。
○幸福追求権
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法13条後段)の総称として使われる言葉。当初は、具体的な法的権利としての性格を認めない解釈が有力だったが、次第に、法的権利性をなんらかの意味で承認する見解が一般化し、裁判の場面で訴訟の当事者によって主張されることが多くなってきている。
(3)第1部第3分科
氏名 竹内啓(たけうち けい) 竹内啓
現職等

東京大学名誉教授、明治学院大学名誉教授

専攻学科目 経済学・統計学
主要な学術上の業績

 竹内 啓氏は、統計学において優れた研究業績を挙げました。統計学の数理理論の基礎である統計的高次漸近理論を確立し、最尤推定値最適性に関して独自の基準を示したのが、その最も代表的な業績です。すなわち、竹内氏は、統計量の漸近展開の手法を確立し、それに基づいた膨大な理論的計算を行って、最尤推定値の最適性を「高次の漸近有効性」という形でその意味(と同時に限界)を明らかにしました。これは世界の研究者に先駆けてなされた業績であり、以後、時系列解析や計量経済分析などの分野でひろく応用されています。

 その他、数理統計学に関し、統計的推測理論、実験計画法、分布近似論などの分野で多くの論文を発表し国際的に知られています。また、科学技術論、社会科学方法論、日本経済論などに関する多くの著書を出版しています。

【用語解説】

○高次漸近(ぜんきん)理論
近似計算を行うとき、一次近似ではなく、二次以上とくに三次・四次などの高い次数までの計算をすること。
○最尤(さいゆう)推定値
標本(データ)があたえられたとき、その標本を生み出した最も確からしい(尤度の高い)と思われる母数(理論値)を推定した値。
○最適性
理論的にもっとも望ましい性質をもつこと。有効性もほぼ同じ。
○時系列解析
時間の順にならんだ標本(データ)を分析する手法。
(4)第1部第3分科
氏名 西村和雄(にしむら かずお) 西村和雄
現職等

京都大学名誉教授、京都大学経済研究所特任教授、

同志社大学経済学部客員教授

専攻学科目 複雑系経済学・経済変動理論
主要な学術上の業績

 西村和雄氏は、複雑系経済学の世界的第一人者として、景気循環経済変動の研究で先駆的な業績を挙げてきました。独自の数理的手法を用いて、合理的な経済主体の活動の結果として景気循環を説明した研究は、内生的景気循環理論を現代経済学の枠組みの中で構築したものとして、非常に高く評価されています。この成果は、複雑系の理論による経済分析の先駆的業績であり、それ以降も、カオス理論などの応用で内生的景気循環理論を精緻化し、ケインズの「アニマル・スピリッツ」理論に現代的な解釈を与えるなど、国際的に多くの業績を挙げてきました。

 西村氏は現代マクロ経済学の応用可能性を大幅に広げ、その後の発展に多大な影響を与え続けています。


【用語解説】

○複雑系経済学
経済システムを複雑系とみなして、カオス理論に代表される非線形な動学的メカニズムを分析する経済学。
○景気循環
景気が上下しながら、一定のパターンで変動していくこと。
○経済変動
GDP、国民総生産などで計られる国民経済全体の活動レベルの変動。
○内生的景気循環
景気の循環や経済活動の変動が、経済の基礎的変数の構造のあり方に起因するという考え方。
○複雑系
多数の異質な要素が相互に干渉しながら一つにまとまって複雑な挙動をするシステム。それぞれの要素からは予測できない特性が出現したり、微細な変化が系全体の大きな変動を引き起こしたりする。
○カオス理論
複雑系システムの代表例であり、非常に単純なメカニズムから非常に複雑で不規則な変動を生み出すシステムを分析する理論。
○ケインズ(ジョン・メイナード・ケインズ)
(1983-1946)、20世紀を代表するイギリスの近代経済学者。
○アニマル・スピリッツ
起業家の活気あるいは血気(けっき)のこと。予測不能な不確実性下であっても投資活動を行う心理を表したもの。

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