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日本学士院新会員の選定について

日本学士院は、平成20年12月12日開催の第1024回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の6名を新たに日本学士院会員として選定しました。
今回の選定で会員数は134名となります。

(1)第1部第2分科
氏名 竹下守夫(たけした もりお) 竹下守夫
現職等 駿河台大学総長、一橋大学名誉教授
専攻学科目 民事訴訟法学
主要な学術上の業績

竹下守夫氏は、民事訴訟法とその周辺諸領域の研究において高い業績を挙げてきました。強制執行の領域における竹下氏の業績は最も顕著です。日本の民事訴訟法は、ドイツ法を翻訳したものを参考に立法化されました。しかし、不動産執行は、強制執行制度の核心でありながら、担保権や賃借権の処理等に絡む複雑・困難な問題が多く、学問的に不毛の状態が長く続きました。同氏は、ドイツを始めフランスやスイスなど諸外国の法制度との対比においてわが国の制度の特質を把握する比較法制度論の方法を駆使して精緻な解釈論・立法論を展開し、この分野でのわが国の研究水準を一気に高めました。

同氏の業績は、倒産法の諸分野にも亘っており、また、新しい学問領域として裁判法学の体系を完成させました。

同氏が挙げてきた学問上の成果は、同氏の主導的関与のもとに達成された近年の民事訴訟法や倒産諸法の全面改正を含むわが国の立法および司法制度改革、さらには海外への立法支援においても、学術上の基盤となっています。

【用語解説】

○強制執行
相手方との間で売買契約・金銭消費貸借契約等が成立したにもかかわらず、相手方がお金の支払いを履行しないなどの場合に、判決などの債務名義を得た人(債権者)の申立てに基づき、相手方(債務者)に対する請求権を、裁判所が強制的に実現する手続き
○裁判法学
裁判の機構や作用および司法制度を対象とした法を研究する学問分野
○倒産法
破産法、民事再生法、会社更生法等の総称
(2)第1部第2分科
氏名 龍田節(たつた みさお) 龍田節
現職等

同志社大学特別客員教授、京都大学名誉教授

専攻学科目 商法
主要な学術上の業績

龍田 節氏は、その研究対象を広く企業法の全分野に及ぼし、なかでも会社法の分野において、その洞察力の深さと分析力の鋭さは、他の追随を許さないものがあります。その初期の業績である、議決権排除と資本多数決の濫用に関する一連の論文は、株式会社における株主の議決権濫用という会社法の基本問題について体系的整序を成し遂げたものであり、その成果は、昭和56年の商法改正にも影響を与えました。

龍田氏は、戦後著しく重要性を増した証券取引法(平成18年改正後は、金融商品取引法)、商品取引所法、独占禁止法、金融法および多国籍企業法などの各分野においても精緻な解釈論と周到な立法論を展開しましたが、特に証券取引法の分野においては、証券業界の法から投資者保護の法、さらには効率的な資本市場形成の法に発展させるための基礎理論を確立するなど、わが国における先駆者的役割を果たしました。

【用語解説】

○議決権排除
昭和56年改正前の商法239条5項は、総会決議について特別の利害関係を有する者は、議決権を有しないと定め、すなわち議決権を包括的に排除し、このような者が参加した決議は、それだけで取消原因があるものとされました。上記改正により、特別の利害関係を有する者も決議に参加できることにし、その代わりに、その者の議決権行使により、著しく不当な決議がなされたときは、他の株主等が決議の取消しを求めることができることになりました。(旧商法247条1項3号、会社法831条1項3号参照)
○資本多数決の濫用
株式会社にあっては、1人1票(頭数多数決)でなく、1株1議決権(資本多数決)で議決します。したがって、多数の株式を握る者が会社を自由に支配できます。このような資本多数決の理論も、民法1条3項が権利の濫用を許さないのと同様に、資本多数決濫用禁止の法理によって是正されます。
(3)第1部第2分科
氏名 菅野和夫(すげの かずお) 菅野和夫
現職等

明治大学法科大学院教授、
中央労働委員会会長、
東京大学名誉教授

専攻学科目 労働法
主要な学術上の業績

菅野和夫氏は、日本では第2次世界大戦後に本格的な研究が開始された労働法学を法律学として確立させるという大きな功績を挙げました。また、学際的手法を導入して労働法研究に新しい地平を開きました。

菅野氏は、労働法の特殊性を考慮しつつ、労働法を全法律体系の一分野を担う普遍性を備えた法解釈学の体系として打ち立てました。これは、画期的な仕事であり、日本の労働法学を大きく転回させたものです。

また、同氏は、労働経済学、労使関係論などの諸科学の成果を十分に咀嚼(そしゃく)して、学際的な研究も進め、関係諸科学の関係者からも高く評価されています。

なお、同氏は、国際学会で総括報告者に選ばれるなど、国際的な活動においても大きな貢献をしています。さらに、その優れた学問を背景とした立法への直接・間接の関与も少なくありません。個別労働紛争の増加に対応して2004年に立法化された労働審判制度の構築に大きく寄与したのは、その一例です。

【解説】

○「戦後に本格的な研究が開始されたこと」
それまでは、日本には労働者を保護するための工場法や労働災害扶助法などはありましたが、労働組合運動は抑圧されており、戦後におけるような労働組合法、労働基準法、労働関係調整法など近代的な「労働法」の骨格をなすような法律がありませんでした。そのためもあって、労働法研究はごく少数の先駆者による業績が存在するだけで、労働法講座をもつ大学は僅かでした。多くの学者によって労働法が研究されたのは、関係法律が整備された戦後においてです。
○「労働法学を法律学として確立させること」
戦後かなり長い間(1970年頃まで)、労働法学は、他の伝統的な法領域に対する労働法の特殊性を強調し、また、運動論としての労働法学という色彩も強く見られました。学者は自ら又は他の学者によって「プロ・レーバー」であるとか、「プロ・キャピタル」と呼び又は呼ばれることが多かったのです。菅野氏は、これに対して、民事法・刑事法体系と整合性を保ちながら労働関係の特殊性を反映させた労働法学を体系的に樹立しました。同氏の『労働法』という体系書は、1985年に初版が出版されて以来、今日の第8版に至るまで、労働法の代表的体系書として、学界、裁判所、法曹、労使実務家、官庁等でことある毎に参照されています。
○「労働法の特殊性」
戦後の労働法では、労働者の保護を重視するため、例えば争議行為についても個々の組合員の民事上・刑事上の法的責任を問わない特殊性を有するというのが通説でした。しかし、菅野氏はこれに異を唱え、民事法学・刑事法学の法理論との整合性にも充分意を払った新たな解釈論を示し、学界に大きな影響を与えました。
(4)第1部第3分科
氏名 新開陽一(しんかい よういち) 新開陽一
現職等 大阪大学名誉教授
専攻学科目 経済学
主要な学術上の業績

新開陽一氏は、経済成長論、マクロ計量モデル、そして金融・財政政策などに関する諸研究により国際的に高く評価されています。

経済成長理論に関しては、1960年代の初期に、それまで一般的な成長モデルとされていたハロッド・ドーマーの一部門マクロモデルを消費財産業と資本財産業とからなる二部門モデルに拡張しました。いわば経済成長論にはじめて各部門の関係性を分析する構造分析を導入したわけで、新開氏の処女作‘On Equilibrium Growth of Capital and Labor’(International Economic Review, 1960)は、国際的に高い評価を得ました。

その後、同氏は、ペンシルバニア大学のローレンス・R・クライン教授(ノーベル賞経済学者)とともに、世界経済を対象とするマクロ計量モデルを構築するという前人未到のプロジェクトに参画、引き続きその高度な手法を日本経済のマクロ計量モデルの構築にも導入しました。また、日本経済における輸入品の代替性や賃金決定過程等に関する実証研究を率先して行いました。

同氏は、開放経済下における金融・財政政策の効果に関する研究においては、マンデル・フレミング・モデルに政府の予算制約を明示的に導入して、国内的、国際的均衡を同時に達成するための金融・財政政策の「割当問題」を分析しました。同氏の論文は国際的に著名な教科書などにおいて、ノーベル賞経済学者であるロバート・マンデル教授の論文と共に、この問題に関する基本的な文献として高く評価されています。

【用語解説】

○マクロ計量モデル
国民所得や物価水準などに関する変動の展望、将来の予測を目的とし、関数などを用いて数学的に表現する経済モデル
○ハロッド・ドーマー・モデル
ケインズ理論が短期的分析にかぎられていたのに対して、ハロッドとドーマーが長期的な均衡成長を分析するために使用した理論モデルで、資本、人口増加、生産技術、消費を成長要因として構築されたモデル
○マンデル・フレミング・モデル
開放経済のケインズ経済学的なマクロモデル。貿易と資本移動を考慮して、変動為替相場と固定為替相場、財政政策と金融政策の関連を分析します。例えば、変動為替相場制の下では、財政政策より金融政策の有効性が主張されます。
(5)第2部第4分科
氏名 西田篤弘(にしだ あつひろ) 西田篤弘
現職等 宇宙科学研究所名誉教授
専攻学科目 宇宙空間物理学、磁気圏物理学
主要な学術上の業績

西田篤弘氏は、50年前のスプートニク打ち上げ以来急速に発展して来た宇宙空間物理学あるいは磁気圏物理学と呼ばれる新分野の世界的研究者として、その開拓と展開に重要な役割を果たして来ました。地球周辺の空間では、高さ約100kmから300kmの超高層大気が太陽からの紫外線を受け電離して電離層を作り、さらに上の高度領域では殆どがプラズマとなった状態の大気が地球と一緒に自転しています。この領域の外側境界が、プラズマ密度が急減するプラズマポーズです。さらに遠く 約60,000km以上の高度になると、太陽のコロナから流出してくる高速プラズマ流である太陽風が地球磁場の磁力線を閉じこめて磁気圏を作り、その中全体に対流運動が起き、夜側には細長い尾部ができています。西田氏は、プラズマポーズの成因を明らかにする理論を確立し、また、プラズマ対流の発生機構を明らかにするなど、地球周辺空間の基本構造の解明に大きく貢献しました。また、1990年代日本のジオテイル衛星プロジェクトのリーダーを務め、月軌道よりはるか遠くまで伸びる磁気圏尾部の構造と変動の観測によって、磁場のエネルギーによるプラズマ加速がオーロラの発生に関わっていることを実証しました。

【用語解説】

○プラズマ
物質の状態は,温度の上昇とともに一般に固体、液体、気体と変化していきます。気体が強い紫外線をあびたり加熱されたりすると、原子核の周りを回っている電子が離れ、原子や分子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に分かれている状態(電離という)となります。これがプラズマで、太陽、地球を取り巻く電離層や極地の空を彩るオーロラを輝かせる電子やイオンなど自然界に広く存在する一方、身近な例としては蛍光灯などの気体中の放電によって作られるものもあります。
○磁気圏プラズマ対流の発生機構
磁気圏は地球の磁場が太陽風によって閉じ込められているところで、プラズマ圏はその中にあります。プラズマ圏より外の磁気圏内も、プラズマ圏よりはるかに小さい密度ですがプラズマで満たされており、プラズマは磁気圏全体に及ぶ系統的な運動をしています。磁気圏物理学ではこれを「対流」と呼んでいます。磁気圏の対流は、外側の太陽風に接する境界の近くでは太陽風と同じく昼側から夜側に向かい、一方磁気圏の中心近くでは夜側から地球に向かい戻ってきます。この対流は、普通の液体や気体の流れのように太陽風の及ぼす力により生じるのではなく、太陽風の運ぶ惑星間空間の磁力線(起源は太陽磁場)と地球磁場の磁力線とがつながることによって引き起こされます。
地球周辺空間の構造

プラズマポーズ
(8)第2部第7分科
氏名 鈴木邦彦(すずき くにひこ) 鈴木邦彦
現職等

米国ノースカロライナ大学医学部名誉教授、
同大学神経科学センター名誉センター長

専攻学科目 神経化学、神経内科、遺伝性神経疾患
主要な学術上の業績

鈴木邦彦氏は40年に亘ってライソゾーム病及び関連遺伝性小児神経疾患の病理メカニズムを追及してきました。ライソゾーム病の一つであるクラベ病の原因となる欠損酵素を同定、また、マウスの中に人間のクラベ病と同じ遺伝性の酵素欠損を持つ系が存在することを発見し、クラベ病マウスモデルとして活用を図りました。さらに、古典的テイサックス病などの疾患の分子生物学的解明、多くのマウスモデルの開発、ペルオキシゾーム病における極長鎖脂肪酸の蓄積など、その後の発展の基礎となる新たな知識を提供しました。これらの中で特に重要な点は、それまで記述的なアプローチに止まっていたライソゾーム病の臨床・病理メカニズムを生化学に基づいて機能的に理解しようと初めて試みたことです。同氏はサイコシン仮説を提唱し、それによって、クラべ病及び各種動物モデルの臨床、病理、生化学の所見を説明出来ることを示しました。サイコシン仮説は、分野の研究にパラダイムシフトをもたらし、概念的に同じようなメカニズムが他の関連疾患についても提唱されるようになりました。

【用語解説】

○ライソゾーム病
ライソゾームは各種の加水分解酵素を持ち、細胞構成物質の分解を司る細胞内小体の一つで、それらの酵素のどれかが遺伝的に欠損すると、正常の細胞の代謝が阻害され、重篤な疾患となります。これらを総称して、ライソゾーム病と呼びます。 クラベ病、テイサックス病などは、典型的なライソゾーム病です。又、ペルオキシゾームは別の機能を持つ細胞内小体で、それに含まれる酵素が欠損するとペルオキシゾーム病になります。
ライソゾーム病とは?
○クラベ病
遺伝性白質変性症の1つで、生後3、4ヶ月で発症し、神経系のみ、特に脳・脊髄の神経繊維が集まる白質系で急速に進行する症状(乳児期はけいれんを引き起こす)を呈し、典型的な臨床経過では、殆どの患者は3歳以前に死亡します。
○サイコシン仮説
鈴木氏によって1972年に提唱された仮説で、通常は存在しないサイコシンと言う毒性を持った物質が、クラベ病の遺伝性酵素欠損の結果、異常蓄積し、それが、クラベ病独特の臨床・病理・生化学的症状を呈する原因であるとする説です。最初、懐疑的に迎えられたこの仮説は、提唱以来40年、今では、広く認められ、その根本的な概念は、他の遺伝性疾患にも応用できると考えられるようになりました。

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