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日本学士院新会員の選定について

日本学士院は、平成19年12月12日開催の第1014回総会において、日本学士院法第3条に基づき、次の9名を新たに日本学士院会員として選定しました。
今回の選定で会員数は138名となります。

(1)第1部第1分科
氏名 難波精一郎(なんば せいいちろう) 難波精一郎
現職等 大阪大学名誉教授
専攻学科目 心理学
主要な学術上の業績

難波精一郎氏は、国際的にも著名な音響心理学の第一人者です。学界の主流であった定常音の研究を革新し、独自の実験装置や時々刻々の音の印象を捉える「カテゴリー連続判断法」を開発して、複雑な変動音と機械音の研究への道を開きました。

この革新を踏まえた難波氏の業績の中核は音色の研究です。高さ、大きさ、音色という音の3つの属性のうち、音色は心理的にも物理的にも多次元的であり、その解析はきわめて困難ですが、難波氏は自身の設計による装置を駆使した精密な実験を中心にして、音色問題の広範囲な領域で前例のない先駆的・先見的な成果を挙げました。騒音制御や機械音の改善、各種の音源に関する言語的記述の国際比較は、その成果の一端です。また、難波氏は変動音に関する研究に基づいて、1998年わが国の「騒音に係る環境基準」の改訂に貢献するとともに、音楽演奏の評価や機械音の設計を発展させました。さらに難波氏は、機械的騒音の評価に騒音レベルだけでなく音色が大きく影響することを明らかにして、機械音の改善を推進しました。

難波氏は海外での評価も高く、アメリカ音響学会特別功労賞やドイツ・オルデンブルグ大学名誉哲学博士を授与されています。

【用語解説】

○定常音と変動音
定常音は時間の経過によっても変化しない音、変動音は時間の経過とともに変化する音
○カテゴリー連続判断法
時々刻々変化する音を聞いてその時々刻々の印象を連続判断し反応盤に入力する方法
○機械音
洗濯機・冷蔵庫・空調機、動力・工作機械、自動車・電車・航空機などから発生する音
○各種の音源に関する言語的記述の国際比較
例えば、主要な音の属性を表現する「大きい」という用語は、日本とスウェーデンでは主に音 楽と音声に用いられて他の音源には選択されず、ドイツとアメリカでは多くの音源に高頻度で選択され、中国では空間を表現する語であって音の表現にはほとん ど使われない、などの比較文化的特性の実験による解明
(2)第1部第1分科
氏名 玉泉八州男(たまいずみ やすお) 玉泉八州男
現職等 東京工業大学名誉教授
専攻学科目 英文学
主要な学術上の業績

玉泉八州男氏は、特にシェイクスピアの生きていた16世紀から17世紀にかけてのエリザベス朝演劇史についての、当時の膨大な資料に基づく緻密な研究によって、優れた業績を挙げました。

玉泉氏は、シェイクスピア時代の演劇資料をはじめ、イギリス・ルネサンスに関する様々な一次資料、二次資料を長年にわたって丹念に渉猟し、時間をかけてこれを咀嚼し消化して、イギリス文学史でもっとも活気にあふれていたこの時代の全体像を明らかにしました。

玉泉氏の研究の対象は、論文、著書、編著、学術研究書の翻訳など、終始一貫してシェイクスピアとその時代に関するものですが、特に主著『女王陛下の興行師たち―エリザベス朝演劇の光と影』(藝立出版、1984)及び『シェイクスピアとイギリス民衆演劇の成立』(研究社、2004)は、その研究成果の集大成ともいうべきもので、そこに展開される独創的、かつきわめて説得力のある見解は、学界からも高く評価されています。

【用語解説】

○エリザベス朝
チューダー朝(イングランドの王朝。1485-1603)5代目の女王であるエリザベス1世(在位1558-1603)治世の時代
(3)第1部第1分科
氏名 青柳正規(あおやぎ まさのり) 青柳正規
現職等 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館長
東京大学名誉教授
専攻学科目 西洋美術史
主要な学術上の業績

青柳正規氏は、イタリアを拠点に旺盛な活動を展開する考古学者であり、西洋古代美術史家です。

青柳氏はナポリ近郊の古代ローマ遺跡ポンペイの研究で国際的に名高く、欧米各国の専門家に呼びかけて、当該遺跡に現存する作品を中心に、500点余の壁画図版に学術的解説を施した日本語版・フランス語版の大部の美術書を完成したことにより、高い評価を得ています。昨年さらにポンペイ研究の第一人者U.パッパラルド氏とともに、1000点に近い高精度の画像と詳細な調査報告とから成る資料集成をイタリアで出版して、美術史家としての声価を高めました。

このような青柳氏の研究経歴の基礎には、30年余にわたるイタリア各地での地道な考古学的調査と、英語・イタリア語による報告書・論文の持続的発表があります。発掘調査は、ポンペイ、シチリア西南岸アグリジェント、イタリア中部タルクィ二ア、ヴェスヴィオ火山北麓ソンマ=ヴェスヴィアーナといった各地所在の4遺跡に及び、彫像や床モザイクの出土をもたらしたほか、古代ローマの上層市民たちの住宅・別荘の構造と変遷を克明に解き明かしてきました。

その際、遺構の盛衰と地中海世界の経済的発展・衰退との関連にも考察の眼を向けるなど、考古学・美術史の域を超え、政治と社会の動きをも視野に入れて古代ローマの全体像に迫ろうとするところに、青柳氏の研究の特徴が認められます。数々の受賞は、青柳氏の業績が学界のみならず広く社会の知的関心に応えうる学問的魅力を具えている証左といえます。

ソンマ=ヴェスヴィアーナ(左、2006年)とソンマ=ヴェスヴィアーナ出土ディオニュソス像(右)
ソンマ=ヴェスヴィアーナ(左、2006年)とソンマ=ヴェスヴィアーナ出土ディオニュソス像(右)
(4)第1部第2分科
氏名 西尾勝(にしお まさる) 西尾勝
現職等 財団法人東京市政調査会理事長
東京大学名誉教授
専攻学科目 行政学
主要な学術上の業績

西尾 勝氏は、日本の行政を的確に分析するための基礎概念と学問体系の構築に、大きな貢献をしました。また、都市行政・地方自治の実証的研究において、高い業績を挙げてきました。

行政学における基礎概念の整理は、行政学独自の学問体系を構成する上で不可欠の作業です。特に「行政」の概念を中心とした行政学の基礎概念に関する業績は、その後の日本における行政学の共有財産になっていると評価されます。

さらに、西尾氏の業績は、アメリカや日本の都市行政・地方自治を 対象とする研究に及んでいます。なかでも、地方行政の計画機能に着目し、住民参加が持つ機能に視野を拡大した業績は、その後盛んとなるボランティア論や 「新しい公共性論」を先取りした成果として、高い評価を得ています。

また、行政学を学問的背景とした、行政・地方自治改革への実践的関わりは、西尾氏の研究の大きな特徴です。

【用語解説】

○新しい公共性論
「公共」を政府や官に限定せず、NGOやNPO、市民などの公的性格に着目する方法論
(5)第2部第4分科
氏名 外村彰(とのむら あきら) 外村彰
現職等 株式会社日立製作所フェロー
専攻学科目 物理学
主要な学術上の業績

外村 彰氏は、高輝度で高干渉性の電子線を世界に先駆けて実現し、これを用いて電子線ホログラフィーを世界ではじめて実用化することに成功しました。これを用いて、アハラノフ・ボーム効果を完璧な形で検証する実験を行い、長年の論争に決着をつけ、自然界のあらゆる力の統一理論と目されている“ゲージ場理論”の基礎を築きました。

また、直接的実証は不可能とされていた電子の「粒子性と波動性の二重性」を疑義のない形で示す“二重スリットの実験”を行い、国内外の物理学の教科書に紹介されるなど、量子力学の基礎に多大な寄与を果たしました。

さらに外村氏は、電子線干渉顕微法により、強磁性体中の磁力線を直接見ることを可能にし、磁気テープの高密度磁気記録の開発に寄与するほか、超伝導体中の磁束量子を直接、しかも動的に観察する道を開き、これによって“磁束ピン止め現象”の観察を可能とし、臨界電流の大きな超伝導材料を開発する指針を得ました。

【用語解説】

○電子線ホログラフィー
物体に当てた電子線と、物体に当てないそのままの電子線とを干渉させてパターンを作り、それに光を当てて物体の像を再生させる手法
○アハラノフ・ボーム効果
磁場の傍らを通過する電子は、磁場が完全にゼロの場所しか通らなくてもその位相が変化するというアハラノフとボームの予言。この予言に対するそれまでの実験的検証には疑義が出されていた。
○ゲージ場理論
空間の各点で長さの尺度を変えても不変であるような場の理論。電磁相互作用、弱い相互作用及び強い相互作用の各理論がゲージ場理論の形式で書かれている。
○磁束量子
超伝導体にある程度高い磁場をかけると、磁力線は沢山の細い束になって超伝導体を貫く。その一本一本を磁束量子という。
○磁束ピン止め現象
磁束量子は超伝導体に電流を流すと動き出して熱を発生し、超伝導を壊してしまう。超伝導体中になんらかの欠陥があると磁束量子はそれに捕捉されて動けなくなり、大電流を流すことができる。
(6)第2部第4分科
氏名 柏原正樹(かしわら まさき) 柏原正樹
現職等 京都大学数理解析研究所長・教授
専攻学科目 数学
主要な学術上の業績

柏原正樹氏は1970年代から現在まで、世界的なリーダーとして代数解析学の革新と発展、その応用を主導してきました。

柏原氏は、超局所解析により線形偏微分方程式を佐藤幹夫氏、河合隆裕氏と共に深く研究し、その研究を基にD加群の理論を構築しました。関数の性質はその特異点に集約され、その性質は関数の満たす方程式の特異点を調べることによって理解できるというリーマンのアイデアを現代数学に甦らせ、D加群を用いてリーマン・ヒルベルト対応の高次元化に成功しました。さらに、D加群により幾何と代数を繋ぐ手法を表現論に応用するなど、現代数学に新たな地平を切り開きました。

これにより代数解析学とD加群の理論は、線形偏微分方程式論を超えて、現代数学の基本的手段として位置付けられ、現代数学の中に大きな流れを作り出しています。

【用語解説】

○代数解析学
代数幾何学が図形を代数方程式の解として研究するのに対し、代数解析学は関数を微分方程式の解として研究する。
○超局所解析
波動を三角級数に分解するというフーリエのアイデアを押し進めて、空間と運動量をともに考えた空間で関数の特異性を解析する手法
○線形偏微分方程式
未知関数の偏微分の関係を与える方程式。波や音などのふるまいを記述する基本的な手段
○D加群
線形偏微分方程式を代数的に研究する枠組み。幾何と代数を繋ぐ架け橋としてその重要性が高まっている。
○リーマン・ヒルベルト対応
線形偏微分方程式は、その解の幾何学的性質によって一意的に決まってしまう。これは、ヒルベルトにより1900年に20世紀の主要な問題として提出された23の問題の一つ。
○表現論
対称性をいろいろな角度から研究する分野
(7)第2部第5分科
氏名 堀川清司(ほりかわ きよし) 堀川清司
現職等 東京大学名誉教授、埼玉大学名誉教授
武蔵工業大学名誉教授
専攻学科目 土木工学(海岸工学)
主要な学術上の業績

堀川清司氏は、海岸工学を学問の一分野として確立する上で多大の貢献をしました。海岸工学は1950年米国において、土木工学の一部門として創始され、わが国には1953年台風13号による高潮災害を機に導入されました。国土面積当たりの海岸線延長が、米国の42倍にも及ぶわが国では、これは極めて重要な分野です。

堀川氏の最も大きな業績は、漂砂現象の解明と、海浜変形予測手法の開発です。浅海域における波の変形や、波によって誘起される海浜流場を求め、これらを基に底質の移動量(漂砂量)を評価し、その上で当該区域の地形変化を予測する手法を提示しました。この際、底質移動の沖側限界を求める必要があり、流体力学の理論的考察に加えて実験や現地観測のデータを用いて、移動限界水深を求める方法を示しました。

上記の予測手法は、その後集積された現地データを用いて改良され、現在多くの海岸に適用されています。

【用語解説】

○海岸工学
海岸で見られる種々の自然現象(波浪、高潮、津波、潮汐、流れ、水質、地形変化等)を対象として調査研究し、併せて海岸の環境や安全性を良好な状態に維持するための施策を追究する工学分野
○波の変形
浅海域の波が、水深の変化、地物や構造物の存在によって波の浅水変形・波の屈折・波の回折・砕波・反射などの様々な変化を生じること
○漂砂
海浜において、波や海浜流によって移動する底質、あるいは底質の移動する現象をいう。
○海浜流
浅海域で、砕波によって打ち寄せられた水塊は、海岸線にほぼ平行した沿岸流や、ある地点から沖に向う離岸流を生じる。これらの流れを総称して海浜流という。
波・流れ・漂砂・地形の相互作用
波・流れ・漂砂・地形の相互作用
(8)第2部第6分科
氏名 喜田宏(きだ ひろし) 喜田宏
現職等 北海道大学大学院獣医学研究科教授
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター長
専攻学科目 獣医微生物学
主要な学術上の業績

喜田 宏氏は、インフルエンザの疫学研究を地球規模で行い、ウイルスの遺伝子解析と感染実験の結果、夏にカモが営巣するシベリアの湖沼水中に存続しているウイルスが、渡りガモによって中国南部の池に持ち込まれ、そこでアヒル等を介してブタに伝播する経路を明らかにしました。さらに、ヒトと鳥のインフルエンザウイルスに同時感染したブタの呼吸器で新型ウイルスが出現する機構を実証しました。

また喜田氏は、ウイルスの宿主域、病原性と抗原変異などの現象が、ウイルスと宿主細胞の遺伝子やタンパク質分子間の相互作用によって起こることを明らかにしました。これらの成果を基に、世界の高病原性鳥インフルエンザと新型ウイルス対策ならびに人獣共通感染症克服のため、広範な研究を展開し、国際協力研究にも多大な寄与をしています。

【用語解説】

○宿主域
ウイルスが感染する生物種の範囲。例えば、インフルエンザA型ウイルスはヒトを含む哺乳動物と多種の鳥にも感染するが、BおよびC型ウイルスはヒトにのみ感染する。
○病原性
微生物が感染した宿主を発病させる性質。高病原性鳥インフルエンザウイルスはニワトリを殺すが、カモやガンは感染しても、普通重症化しない。
○抗原変異
ウイルスが感染した動物には、免疫抗体ができる。その抗体が結合しない変異ウイルス(抗体が結合する部位を構成するアミノ酸残基が置換したウイルス)が選択される結果、抗原性が異なるウイルスが優勢となること。
新型インフルエンザウイルスの出現機序
(9)第2部第7分科
氏名 須田立雄(すだ たつお) 須田立雄
現職等 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター客員教授
神奈川歯科大学客員教授、昭和大学名誉教授
専攻学科目 歯学(歯科基礎医学)
主要な学術上の業績

須田立雄氏は、40年以上にわたり、生体のカルシウム代謝を調節する最も基本的な因子であるビタミンDの代謝調節、作用のしくみ、活性型ビタミンD(強力な生理作用を持つビタミンD代謝産物)の臨床応用のための基礎研究に取り組んできました。特に、須田氏の考案した活性型ビタミンDの合成誘導体(1α-ヒドロキシビタミンD3)は、近年新しい生活習慣病としてクローズアップされている骨粗鬆症患者の基本的な治療薬となっています。

また須田氏は、活性型ビタミンDの分化誘導作用の研究から出発し て、骨吸収の主役を演じる破骨細胞の形成には、骨形成に関与する骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞との間に細胞間接着を介して破骨細胞分化因子(ODF)と名付 けたタンパク質が関与するという作業仮説を提唱し、その仮説が正しいことを分子レベルで証明しました。

須田氏の一連の研究は、基礎生命科学と医学・歯学の進展に大きく貢献するものです。

【用語解説】

○1α-ヒドロキシビタミンD3
ビタミンD代謝が正常に行われない慢性腎不全患者や骨粗鬆症患者などに投与することで、活性型ビタミンDの合成を誘導し、症状を改善する。現在、100万人以上の骨粗鬆症患者が毎日服用している。
○破骨細胞分化因子
骨は、形成と吸収を繰り返す動的な組織であり、生体内のカルシウムの貯蔵庫ともなってい る。破骨細胞は、骨吸収の過程を担う重要な細胞であり、骨芽細胞の細胞膜上に発現する破骨細胞分化因子(ODF/RANKL)は、破骨細胞を形成するための鍵を握る因子である。ヒト型抗RANKL抗体を骨粗鬆症患者に投与すると、骨吸収が著明に抑制され、一回の抗体投与でその効果は3ヶ月以上も持続する。

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