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日本学士院学術奨励賞の受賞者決定について

日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者5名に対して、第4回(平成19年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。

氏名 青山和夫 (あおやま かずお) 青山和夫
生年月 昭和37年11月(45歳)
出身地 京都府
現職 茨城大学人文学部教授
専門分野 マヤ文明学、マヤ考古学
研究課題 古典期マヤ人の日常生活と政治経済組織の研究
主要な学術上の業績

青山和夫氏は、ホンジュラスのコパン遺跡、グアテマラのアグアテカ遺跡の国際共同調査団の団員として、先古典期・古典期マヤ遺跡の調査に従事し、従来十分には注意されていなかった大量の打製石器の出土遺物について、高倍率金属顕微鏡による使用痕分析と中性子放射化分析との併用により、考古学的にその機能を通時的に分析し、また各種石器の定量・定性を分析した結果をデータ化しました。また、その成果にもとづく諸論考により、黒曜石などの原石が特定産地から交易により都市国家にもたらされ、書記と工芸家とを兼ねた支配層の住居における広汎な日常消費用具に加工されて周辺に流布されるに至った状況を明らかにしました。この発見にもとづいて古典期マヤ国家の発展過程における交換の役割と性格、社会的分業、手工業生産、政治経済組織、都市および戦争の内実等について実証的に解明しています。

このように青山氏の独創的な作業は、マヤ古代文明の研究に新しい地平を開拓したものとして国際的に高い評価を得ています。

【用語解説】

○先古典期・古典期
紀元前1000年~西暦250年頃・西暦250年~西暦1000年頃
○中性子放射化分析
分析対象物(試科)に中性子を照射して構成元素を放射化させ、その放射能およびエネルギーを測定して、元素分析を行う手法
○黒曜石
火山が噴火した時に溶岩が急速に冷え、殆ど結晶作用を行うことなくそのまま固まって、天然ガラスとなったもの。その切断面は鋭く、矢じりのような武器以外にナイフのような生活用品、石器としても長く使われてきた石
○マヤ
「マヤ」とは、マヤ諸語という言語自体、またはマヤ諸語を話す言語集団をさす。熱帯雨林を中心とした地域(現在のメキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米5か国にまたがる地域で、ユカタン半島北部のサバンナ地域やグアテマラ南部の高地もその範囲に含まれる地域)で、紀元前600年頃、マヤ文明が誕生し、その文明は、2000年にもわたり栄え続けた。
マヤは、高度な建築技術、現代科学に匹敵する天文学技術、複雑なマヤ文字の体系をもっていた一方、金属利器をもたない新石器時代の都市文明でもあった。
氏名 大越慎一 (おおこし しんいち) 大越慎一
生年月 昭和40年10月(42歳)
出身地 神奈川県
現職 東京大学大学院理学系研究科教授
専門分野 物性化学、磁気化学、光物理化学
研究課題 磁気化学を基盤とした新規磁気物性の創出に関する研究
主要な学術上の業績

大越慎一氏は、物理化学をベースに斬新な設計概念を駆使して、分子と金属イオンが結合した金属錯体により、従来にない磁気物性を示す物質を数多く創出しました。

プルシアンブルー類似体を用いた、強磁性と強誘電性が共存する金属錯体、2重補償点を持つ磁性体、さらに光照射により磁極反転する磁性体あるいは湿度変化に応答する磁性体などを世界で初めて作製し、磁性分野において新しいカテゴリーの物質群を確立しました。また、これらの知見を基に、金属酸化物としては最高の保磁力を示す酸化鉄ナノ磁性体を合成するなど、磁気記録への応用の道も拓いています。

このように、同氏が見出した新たな磁性現象や磁性体は、顕著な学術的貢献に加え応用展開という社会貢献も期待されます。

これらの研究成果は優れた国際学術誌に多数掲載されており、大越氏に対する国内外での評価は極めて高いものとなっています。

【用語解説】

○プルシアンブルー類似体
顔料のベルリン青、紺青と類似の分子構造を持つ化合物
○2重補償点
熱の変化によって磁化が0になる温度が2度あること。すなわち温度により磁極が2回反転することを意味する。
○酸化鉄ナノ磁性体
鉄の化合物で、粒径が数10ナノメートルの酸化鉄の微粒子
熱により磁極が二回反転する磁性体(二重補償点磁性)
熱により磁極が二回反転する磁性体(二重補償点磁性)
氏名 沖 大幹 (おき たいかん) 沖大幹
生年月 昭和39年11月(43歳)
出身地 東京都
現職 東京大学生産技術研究所教授
専門分野 地球水循環システム
研究課題 地球規模の水循環変動と世界の水資源需給の予測
主要な学術上の業績

沖 大幹氏は本研究において、全地球の水循環と水収支を種々の観測および世界の水利用に関する膨大なデータに基づき定量的に推定し、大気と陸面の相互作用および人間活動の影響も考慮して将来の水資源需給を予測可能なモデルを構築しました。この研究は地球規模の水循環変動および世界の水資源に関する研究分野を新たに開拓した先駆的なものです。特に、沖氏が開発した大気—陸域水収支法はその後各国の研究グループにより広く用いられており、また同氏の水収支・水循環の予測や世界の水ストレス分布に関する研究は、地球温暖化が水資源に及ぼす影響の評価、気候変動に関する政府間パネル報告や国連生態系アセスメント、および日本政府の水と衛生分野に関わるODA政策の基礎となっています。

このように、沖氏の研究は研究面で国際的に極めて高く評価されるとともに、世界の水資源問題の解決への指針を与えるものです。

【用語解説】

○大気—陸域水収支法
大気中の水蒸気分布の時間変化や水蒸気の流れに基づいて、陸水貯留量の変化や河川への流出量、あるいは、降水や陸地表面からの水の蒸発など大気と陸地表面間における水の移動量を算定する方法
○水ストレス分布
利用可能な水資源量に対する水使用量の比で示した水ストレス(安定的な水利用が脅かされている状態)指標の世界的分布。0に近いほど水利用が相対的に少なく、1に近いほど水需給が逼迫していることを示す。
水資源不足指標(水ストレス指標)
水資源不足指標(水ストレス指標)
氏名 林 康紀 (はやし やすのり) 林康紀
生年月 昭和40年7月(42歳)
出身地 愛知県
現職 理化学研究所脳科学総合研究センターユニットリーダー
マサチューセッツ工科大学脳認知学部、ピカワー学習記憶研究所、 理研-MIT脳科学研究センターアシスタント・プロフェッサー
専門分野 シナプス可塑性
研究課題 海馬シナプス可塑性の分子機構
主要な学術上の業績

林 康紀氏は、脳の高次機能、記憶のメカニズムの素過程である海馬長期増強現象(LTP)について分子生物学、薬理学、電気生理学とイメージングを統合して優れた先見性と独創性のある研究成果をあげてきました。

特に、蛍光蛋白を使い可視化することによってシナプス伝達を担っているグルタミン酸受容体が、LTP誘導に伴いシナプスに移行し、増加することでより強い伝達が起こることを示した研究があります。さらに、LTPにともないシナプスが数十秒の単位で大きくなり、また忘却の過程として知られる長期抑圧(LTD)では、小さくなることを示し、これにカルシウムカルモジュリン依存性の蛋白リン酸化酵素(CaMKII)とアクチン細胞骨格が関連していることを明らかにした成果は、高く評価されています。

林氏は、このように脳科学の重要課題である記憶過程の基礎にあるシナプス前部と後部における現象を学際的かつ精緻な技術を駆使して研究を進めており、将来のさらなる発展が期待されます。

【用語解説】

○海馬長期増強現象(LTP=Long Term Potentiation)
脳の深いところにあり、記憶形成を担っていると考えられる海馬において、ある刺激を受けることにより、神経細胞同士の信号の伝達効率が大きくなること。
○グルタミン酸受容体
グルタミン酸とは脳の中で情報伝達を担い、記憶などに深く関わっている情報を受け取るアミノ酸の一種であり、グルタミン酸受容体とは、グルタミン酸に結合して神経細胞を活動させる神経細胞の表面にある蛋白質
○シナプス伝達
細胞体から伝わった電気信号を化学物質の信号に変えて次の神経細胞に情報を伝達すること。この神経細胞間で信号が伝達される接続部をシナプスという。
○長期抑圧(LTD=Long Term Depression)
ある刺激を受けることにより、神経細胞同士の信号の伝達効率が小さくなること。(←→ 長期増強(LTP))
○カルシウムカルモジュリン
カルシウムとカルモジュリンが結合したもの。カルモジュリンとは、細胞内カルシウム濃度の上昇を細胞内の生理的活動に結びつける広用途な蛋白質で、神経系に豊富な蛋白質。カルシウムと結合すると蛋白質全体の構造が大きく変わり、目的の酵素なり構造蛋白質に結合することができ、結合相手の蛋白質の活性が変わる。
○蛋白リン酸化酵素
カルシウムカルモジュリンが活性化する酵素の1つ。蛋白質の鎖状につながったアミノ酸の一部分にリン酸基が入ると、その電気的環境は激変して蛋白質の全体構造もリン酸化前とは大きく違ったものになる。この性質を利用して蛋白質の機能を制御している。
○アクチン細胞骨格
蛋白質の一種であるアクチンにより、細胞の形態を維持している構成要素のこと。アクチンが繋がった繊維である「アクチンフィラメント」も細胞骨格の一つ。蛋白質細胞内の構造上の骨組みは細胞骨格によって配置され、必要に応じてそうした配置は細胞骨格によってコントロールされ、細胞の有機的な活動を実現している。
氏名 藤原 徹 (ふじわら とおる) 藤原徹
生年月 昭和39年9月(43歳)
出身地 大阪府
現職 東京大学生物生産工学研究センター准教授
専門分野 植物栄養学、植物分子遺伝学、植物生理学
研究課題 植物におけるホウ素輸送体の発見
主要な学術上の業績

藤原 徹氏は、古くから植物における必須元素の一つとして知られるホウ素の輸送に関わる遺伝子の初めての発見を起点に、植物栄養学の領域で世界をリードする先進的研究を展開している研究者です。特に、シロイヌナズナにおけるホウ酸の排出と取り込みにかかわる2種類の輸送体やその相同遺伝子産物を同定してその機能を明らかにするとともに、それら輸送体の膜における発現がホウ素の不足または過剰によって制御される動態を解明し、さらにそれら輸送体遺伝子を導入することによってホウ素欠乏や過剰に耐性な植物の作出に成功した一連の研究は、必須元素の植物における輸送機構について基礎的にも極めて優れた成果です。それと同時に、現実の農業生産に影響を及ぼしているホウ素過剰または欠乏を克服する上で応用的にも重要な貢献として高く評価されています。

藤原氏によるこれらの成果は、酵母からヒトにいたる真核生物における相同なホウ酸輸送体の発見を導き、これまで受動輸送と考えられていたホウ素の輸送についての概念を覆した点でも普遍的な意義を有しており、基礎、応用の両面で今後のさらなる発展が期待されます。

【用語解説】

○ホウ素(ホウ酸)
非金属元素の1つで、土壌の中ではホウ酸という状態で存在する。高等植物に必要な元素であると同時に、過剰に存在すると生育に障害を起こし、ホウ素不足または過剰により農業生産に問題のある地域がある。
○シロイヌナズナ
学名はアラビドプシス。世代時間が短く(約2ヶ月)、栽培も容易で植物体も小さいため、遺伝子組み換えによる基礎研究の材料に適した植物。また遺伝子構造がイネなどの穀物に類似している。
○2種類の輸送体
排出型輸送体(BOR1)、吸収型輸送体(NIP5;1)を指す。前者は一旦取り入れたホウ酸を細胞外に運び出し、後者はホウ酸を細胞内に運び入れるポンプの役割をする蛋白質
○相同遺伝子産物
共通の祖先遺伝子から進化分岐し、配列が極めてよく似ており機能も同じと考えられる蛋白質(遺伝子産物)

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