日本学士院

第48回公開講演会講演要旨

共通テーマ 「地震」を考える

1) 地震予知の現状について   上田誠也

 多岐にわたる大地震の災害の中でも、各市民にとってもっとも切実なのは自分や親しい人びとの死であろう。地震による死はその大部分は建造物の倒壊によるもので、それは地震発生の数分以内、すなわちいかなる救援活動も始まる前におこる。これから身を守る決め手は、建造物の耐震強化と“短期”地震予知以外にはあるまい。

 本講演では後者について考察する。

 “短期”地震予知を行なうには、何らかの信頼できる前兆現象をとらえなければならないが、それらの存否や観測可能性などの基本的問題については研究者の間で見解が分かれている。地震学を専門とはしないが、短期予知に関わる地球化学・水文学・地球電磁気学・固体物理学・電波科学などの研究者には肯定論が多いが、予知計画に中心的役割を担う地震学者は否定的である。この意見の不一致にはいくつかの原因が考えられるが、地震予知研究進展の大きな妨げになっている。かかる事態を招来した背景事情と今後のありかたなどについて私見をのべる。>配付資料

2) 災害の経済的損失   貝塚啓明

 自然災害(地震、火山噴火、津波など)は、大きな社会的影響をもたらす。例えば、関東大震災(1923)は、大きな人的被害にとどまらない衝撃を日本社会に与えた。日本社会は、首都東京を中心に麻痺した状況に落ち込んだ。その後、第二次大戦による経済的被害は、大きなものがあったが、自然災害とはいえない。ここでは、最近の災害(阪神・淡路大震災や中越地震など)を中心に、経済的被害(建築物、インフラ関係、ライフライン施設への被害)の大きさを説明する。また、歴史的に有名なリスボン大地震や諸外国の最近の自然災害の被害をできる限り言及する。人命損失は、単なる経済的損失ではないのでその評価は、簡単ではないことも議論したい。>配付資料