日本学士院

第58回公開講演会講演要旨

1) パスカルの賭け —意思決定における理性と信—  塩川徹也

    「人間は考える葦である」の名句で知られるパスカルは、天才的な数学者・物理学者であると同時に熱烈なキリスト教徒でしたが、神の存在をめぐって賭けを設定することを通じて読者を信仰に誘うという奇想天外な議論を、遺著『パンセ』のなかで展開しています。この議論は多くの読者の心を捉えると同時に、大きな物議をかもしてきました。神や信仰のような神聖な事柄を損得勘定と結びつけるのは、いかにもはしたないと感じられるからでしょう。
しかしながらパスカルは問題の文章で、自らの宗教的信念のエッセンスを表明するとともに、人間の意思決定と行動の動機・構造にきわめて鋭い分析を加えています。わたしたちはどうして不確かな未来を目指して行動を起こさずにはいられないのか、そこで働く意思決定のメカニズムはいかなるものか、そこで理性と信はいかなる役割を果たしているのか、そして最後に、パスカルの目指す信仰はいかなるものだったのか。こうした問題をパスカルの文章を読みながら、考えていきたいと思います。

2) インフルエンザウイルスの生態
—鳥インフルエンザとパンデミックインフルエンザ—   喜田 宏

    毎年冬に流行する季節性インフルエンザ、1918年、1957年、1968年と2009年に出現して世界に流行したパンデミックインフルエンザ、そしてアジアで大きな被害を及ぼしている高病原性鳥インフルエンザは、すべてインフルエンザAウイルスの感染によって起こる病気です。
「インフルエンザウイルスは、どこで、どのように存続してきたのか、パンデミックインフルエンザウイルスと高病原性鳥インフルエンザウイルスは、どのようにして出現するのか、また、ウイルスの病原性、変異、遺伝子再集合とは何か。」これらの疑問に答え、如何に鳥インフルエンザと季節性インフルエンザを克服し、パンデミックインフルエンザに備えるべきかについてお話しします。