日本学士院

第38回公開講演会講演要旨

共通テーマ 生命科学の今日 —クローン技術をめぐる諸問題—

1) クローン技術の有効利用
—家畜の改良、希少種の保護、遺伝子工学から医療まで—   入谷 明   

 この講演では、まずクローン技術発展の歴史的背景について述べ、ついで将来展望、とくに生産効率の低い現状がかなり改善されることを条件として、この技術の有効利用について項目を追って解説する。
約22年前、ヒツジの2細胞期胚の割球分離により双子生産、ついで10年前頃から1卵生5~11子のヒツジやウシが生産され、所謂、受精卵クローンの基礎ができた。ついで1996年これまで哺乳動物では不可能とされていた成体細胞の核移植でクローンヒツジ、ドリーが生産され、続いてアメリカ、日本で体細胞クローンウシの誕生、以後マウス、ヤギ、ブタ、最近ではクローンネコ、ウサギも生まれている。今後この技術の有効利用の項目としてスーパー家畜の増数、希少種の増数、絶滅種の復活、中~大動物における形質転換技術への利用、再生医療への応用などに期待がよせられている。

2) クローン人間の社会的規制 —人工生殖に関連して—   星野英一

 クローン人間作成は、子のない者が子を得る方法、つまり人工生殖技術の延長にあるものであり、クローン胚作成は、医療への応用に期待がかけられている。
しかし、どんなにすぐれた技術であっても、人間に応用することには、倫理問題、そして法律問題が存在する。人間のすることについては、倫理が道を示すものであり、法律は、それを一定の場合に強制して人類・社会の安全をはかるものだからである。各国で、クローン技術の人への適用が厳重に規制されており、日本においても既に規制する法律が制定されているが、国連においても、これを禁止する国際条約の制定が企図されている。この際、人クローン胚作成も禁止すべきかにつき、大きな議論がある。
ここでは、他の人工生殖技術とも関連させつつ、クローン技術を認めてよいか否かにつき、賛否両論の根拠を挙げて、皆さんの考察の参考に資したい。