日本学士院

第35回公開講演会講演要旨

1) 日本の政治の特徴   京極純一   

 日本の現在の政治は、国民主権、三権分立、基本的人権の保障、国会制度など、近代西欧において展開してきた「民主政治」を制度としている。従って、日本の政治の特徴を捉え、評定する、基本的な方法も、西欧の民主政と比較、分析し、評価、論述する方法となっている。
明治維新以来の日本の近代化の中では、西洋の文物・制度が、日本の折々の現状を評定する物差しとなった。政治についても事情は同様である。大日本帝国憲法の下の立憲政治の進展と挫折、日本国憲法の下の民主政治の充実、さらには社会主義系統の施策の実現のための活動などの面から、日本の政治の特徴を捉えるのが、今日の研究と分析の常例となっている。
こうして、この一世紀半の経過は、日本語、日本の文化、民俗の伝統の中で、西洋式国家の制度と運用を実現しようとしてきた、先人の苦心、工夫、努力の過程である。こうした側面についても、日本政治の研究の進展が望ましい。

2) 物質はどこまで細分できるか   西島和彦

 我々の周囲を取り巻いている物質を細分してゆくと究極的には分子や原子の世界に到達する。元来、原子に対応するアトムという単語には、これ以上分解できない粒子という意味があったが、現在ではさらにこの原子に光を当てたり、他の粒子を衝突させたりして分解してゆくと、これ以上は細分できないと思われる素粒子が出現する。電子、陽子、中性子などはその典型的な例である。
人間的尺度のマクロの世界から分子、原子の尺度のミクロの世界に目を向けると、我々の常識が通用しないことに気がつく。一つは個性の喪失であり、二つの同種素粒子は全く区別がつかない。もう一つは素粒性と波動性という一見お互いに矛盾する性質を兼ね備えていることである。さて上記の素粒子の定義は粒子を分解する技術の進歩と共に変化してゆく。即ち、新しい方法を用いれば、素粒子と思われていた粒子もさらに分解できるのではないかという疑念が生じる。そこでこの問題の現状について説明する。